・・・「時間を減らして、その代りあまり必須でない科目を削るがいい。『世界歴史』と称するものなどがそれである。これは通例乾燥無味な表に詰め込んだだらしのないものである。これなどは思い切って切り詰め、年代いじりなどは抜きにして綱領だけに止めたい。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・悪い人にでも容易にわかったと思われるような尋常茶飯事の中に、何かしら不可解な疑点を認めそうしてその闡明に苦吟するということが、単なる科学教育者にはとにかく、科学的研究に従事する者にはさらにいっそう重要必須なことである。この点で科学者は、普通・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・への貢献を含むということが必須条件であると思われるのである。一見いかに現在の道徳観を擾乱するように思われるものであっても、また一見いかに病的な情緒に満ちたものであっても、それが多数の健全なる理性の所有者にとっていわゆる芸術的価値を多少なりと・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・それはわれわれの言語を組み立てている因子の中でも最も重要な子音のあるものの発音に必須な器械の一つとして役立つからである。これがないとあらゆる歯音が消滅して言語の成分はそれだけ貧弱になってしまうであろう。このように物を食うための器械としての歯・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・るかということにもより、また土地に対する人口密度にも支配されることであるが、しかしいずれにしても、作ろうと思えば大概のものは日本のどこかに作り得られるという事実の根底には、やはり気候風土の多様性という必須条件が具備していなければならない道理・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・そうしてそれは人類の保存と人間社会の円滑な運転に必須な機巧の一部をなすものかもしれない。 こういうふうに考えて来ると世事の交渉を回避する学者や、義理の拘束から逃走する芸術家を営巣繁殖期に入った鳥の類だと思って、いくぶんの寛恕をもってこれ・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・しかしいかなる場合にでも、その研究者が物理学現在の全系統について、正しい要約的な理解を持っていることだけは必須な条件である。日本でもまれに隠れた篤志な研究者がいて、おもしろい問題をつかまえて、おもしろい研究をしている人はあるようであるが、惜・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・だれでもが指揮者になれない理由はそこにあり、芭蕉七部集の連句には一芭蕉の存在を必須とした理由もここにあり、さらにまたたとえば蕪村七部集の見劣りする理由もここにあるのであろう。 芭蕉は指揮者であるのみならず、おそらくまた一種の作曲者ででも・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・東京の都市は王政復古の後早くも六十年の星霜を閲しながら、猶防火衛生の如き必須の設備すら完成することが出来ずにいる。都市のことを言うに臨んで公園の如き閑地の体裁について多言を費すのは迂愚の甚しきものであろう。昭和二年六月記・・・ 永井荷風 「上野」
・・・わたくしは演劇及オペラの如き芸術家の肉体と肉声とを必須となす芸術は、必其の作者と人種を同じくする者によって演ぜられる事を望んでいる。カルメンの完全なる演出は仏蘭西人を俟たねばならぬが如く、トリスタンは独逸人でなければならぬであろう。わたくし・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
出典:青空文庫