・・・ 私はそのとき以来、兄たちが夏休み毎に東京から持って来るさまざまの文学雑誌の中から、井伏さんの作品を捜し出して、読み、その度毎に、実に、快哉を叫んだ。 やがて、井伏さんの最初の短篇集「夜ふけと梅の花」が新潮社から出版せられて、私はそ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・案を拍って快哉を叫ぶというのは、まさに求めるものを、その求める瞬間に面前に拉しきたるからこそである。 こういう現象の可能なのは、畢竟は人間の心の動き、あるいは言葉の運びに、一定普遍の方則、あるいは論理が存在するからである。作者は必ずしも・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・あるいはまたあまりに枯淡なる典型に陥り過ぎてかえって真情の潤いに乏しくなった古来の道徳に対する反感から、わざと悪徳不正を迎えて一時の快哉を呼ぶものとも見られる。要するに厭世的なるかかる詭弁的精神の傾向は破壊的なるロマンチズムの主張から生じた・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・憤怒は血を見て快哉を叫ぶ。ここに人生は華麗なる波紋を画き出した、執着の反動は恐ろしきものである。 憤怒があり哀願があるのは「自己」の存在を認識して後に起こる現象である。己が不遇を知らずして天を楽しみ地を喜び平然として生きるものはさらに憐・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫