・・・置かずともいい、僕はトマト、好きじゃないんだ、こんなトマトなどにうつつを抜かしていやがるから、ろくな小説もできない、など有り合せの悪口を二つ三つ浴びせてやったが、地平おのれのぶざまに、身も世もなきほど恥じらい、その日は、将棋をしても、指角力・・・ 太宰治 「喝采」
・・・ら飄然と塒に帰り、互に羽をすり寄せて眠り、朝になると二羽そろって洞庭の湖水でぱちゃぱちゃとからだを洗い口を嗽ぎ、岸に近づく舟をめがけて飛び立てば、舟子どもから朝食の奉納があり、新婦の竹青は初い初いしく恥じらいながら影の形に添う如くいつも傍に・・・ 太宰治 「竹青」
・・・そのころも、いまも、私やっぱり一村童、大正十年、カメラ珍らしく、カメラ納めた黒鞁の胴乱、もじもじ恥じらいつつも、ぼくに持たせて、とたのんで肩にかつがせてもらって、青い浴衣に赤い絞り染めの兵古帯すがたのあなたのお供、その日、樹蔭でそっとネガの・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
出典:青空文庫