・・・之を煩わすに似たれども、其相談は老人を疏外せざるの実を表するものにして、却て意を慰むるに足る可し。曾て或る洋学者が妻を娶り、其妻も少し許り英語を解して夫婦睦じく家に居り、一人の老母あれども何事も相談せざるのみか知らせもせずに、夫婦の専断に任・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・内心にこれを愧じて外面に傲慢なる色を装い、磊落なるが如く無頓着なるが如くにして、強いて自ら慰むるのみなれども、俗にいわゆる疵持つ身にして、常に悠々として安心するを得ず。その家人と共に一家に眠食して団欒たる最中にも、時として禁句に触れらるるこ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・古人が客観に動かされたる自己の感情を直叙するは、自己を慰むるために、はた当時の文学に幼稚なる世人をして知らしむるために必要なりしならん。これ主観的美の行われたるゆえんなり。かつその客観を写すところきわめて麁鹵にして精細ならず。例えば絵画の輪・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 淋しいもんで、いろいろ勝手な事を考えて自分で慰むより仕方がない。 あの草の根方に、小っぽけな人間の形をしたものが一杯居る。 それが皆、私のふだんから好いて居る西洋の何百年か前の着物を着て歩き廻って居る。 居る女達は、皆、私・・・ 宮本百合子 「草の根元」
出典:青空文庫