・・・己は足を留めて、少し立ち入ったようで悪いかとも思ったが、決心して聞いて見た。「あれはなんだね。」「判決文です。」エルリングはこう云って、目を大きくって、落ち着いた気色で己を見た。「誰の。」「わたくしのです。」「どう云う文・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・それに感情が鋭敏過ぎて、気味の悪いような、自分と懸け離れているような所がある。それだから向うへ着いて幾日かの間は面倒な事もあろうし、気の立つような事もあろうし、面白くないことだろうと、気苦労に思っている。そのくせ弟の身の上は、心から可哀相で・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・眼が鈍い、頭が悪い、心臓が狭い、腕がカジカンでいる、どの性質にも才能にも優れたものはない、――しかも私は何事をか人類のためになし得る事を深く固く信じています。もう二十年! そう思うとぐッたりしていた体に力がみなぎって来る事もあります。 ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫