・・・樅はある程度まで成長して、それで成長を止めました、その枯死はアルプス産の小樅の併植をもって防ぎ得ましたけれども、その永久の成長はこれによって成就られませんでした。「ダルガスよ、汝の預言せし材木を与えよ」といいてデンマークの農夫らは彼に迫りま・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・更に深く考えてみると、この縁は貴所の申込が好し先であってもそれは成就せず矢張、細川繁の成功に終わるようになっていたのである、と拙者は信ずるその理由は一に貴所の推測に任かす、富岡先生を十分に知っている貴所には直ぐ解るであろう。 かつ拙者は・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・彼はずいぶん少年にありがちな空想を描くけれども、計画を立ててこれを実行する上については少年の時から今日に至るまで、すこしも変わらず、一定の順序を立てて一歩一歩と着々実行してついに目的どおりに成就するのである。むろんこれは西国立志編の感化でも・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・進み進んで、出来る、出来ない、成就不成就の紙一重の危い境に臨んで奮うのが芸術では無いでしょうか。」「そりゃそういえば確にそうだが、忍術だって入用のものだから世に伊賀流も甲賀流もある。世間には忍術使いの美術家もなかなか多いよ。ハハハ。」・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・小角は孔雀明王咒を持してそういうようになったというが、なるほど孔雀明王などのような豪気なものを祈って修法成就したら神変奇特も出来る訳か知らぬけれど、小角の時はまだ孔雀明王についての何もが唐で出ていなかったように思われる。ちょっと調べてもらい・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・木沢殿、事すでにすべて成就も同様、故管領御家再興も眼に見えてござるぞ。」というと、人々皆勇み立ち悦ぶ。「損得にはそれがしも引廻されてござるかナ。」と自ら疑うように又自ら歎ずるように、木沢は室の一隅を睨んだ。 其後幾日・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ かようにして、私の知識は普通道徳を一の諦めとして成就させる。けれども同時にその源が神秘なものでも荘厳なものでもなくなって、第一義真理の魅力を失い、崇拝にも憧憬にも当たらなくなってしまう。四 知識で押して行けば普通道徳が・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・十日目にその念願を成就することができたのである。 太郎は鏡の中をおそるおそる覗いてみて、おどろいた。色が抜けるように白く、頬はしもぶくれでもち肌であった。眼はあくまでも細く、口鬚がたらりと生えていた。天平時代の仏像の顔であって、しかも股・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・新聞記者が新聞紙上に日々の出来事を記載するにこの意図があるかどうかは明らかでないが、もしそういう意図があってそうしてそれを実行し成就しようとするならば新聞記者というものは、セザンヌやまたすべての科学者を優に凌駕すべき鋭利の観察と分析の能力を・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・それが善い悪いは別として、そうしなければ大願望が成就しないことだけはたしかである。そういう「事実の方則」がこの書の到る処に強調されているのを見逃すことは出来ないのである。 かように、一方では遁世を勧めると同時に、また一方では俗人の処世の・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
出典:青空文庫