・・・引用するのは後世の勝手だが、しかし、スタンダールを語るのに非常に便利な言葉、手掛りになるような言葉として引用されるようなものを、下手に残して置かない方が、スタンダールらしかったのではないかと、私は考えるのだ。 ことにそれが墓銘ときては、・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・そのためには五感のうちの一つを欠いた人間の知識の内容がどのようなものかという事を調べるのも、最も適当な手掛りの一つだと思われた。それを調べた上で、もし出来るならば、世界中の人間がことごとく盲あるいは聾であったとしたらこれらの人間の建設した科・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・コーヒー茶わんの縁がまさにくちびると相触れようとする瞬間にぱっと頭の中に一道の光が流れ込むような気がすると同時に、やすやすと解決の手掛かりを思いつくことがしばしばあるようである。 こういう現象はもしやコーヒー中毒の症状ではないかと思って・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・ 例えば殺人罪を犯した浪人の一団の隠れ家の見当をつけるのに、目隠しされてそこへ連れて行かれた医者がその家で聞いたという琵琶の音や、ある特定の日に早朝の街道に聞こえた人通りの声などを手掛りとして、先ず作業仮説を立て、次にそのヴェリフィケー・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・これによって少なくも有益な暗示を得、また将来研究すべき事項に想い到るべき手懸りを得るのではあるまいか。 地震だけを調べるのでは、地震の本体は分りそうもない。四 地震の予報 地震の予報は可能であるかという問題がしばしば提出・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・案外、そういう方面から有益な手掛かりを得られないとも限らないからである。 樹木の年輪や、魚類の耳石の年輪や、また貝がらの輪状構造などは一見明白な理由によって説明されるようではあるが、少し詳細に立ち入って考えるとなると、やはりわからないこ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ この偏光の研究を更につきつめて行って、この頃では塵のない純粋なガスによって散らされる光を精細に検査し、その結果からガス分子自身の形に関するある手掛りを得ようとしている学者もあるようである。 附記。空中の塵埃に関して述ぶべき物理・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ともかくも世界じゅうの化け物たちの系図調べをする事によって古代民族間の交渉を探知する一つの手掛かりとなりうる事はむしろ既知の事実である。そうして言論や文字や美術品を手掛かりとするこれと同様な研究よりもいっそう有力でありうる見込みがあ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・何か嗅覚類似の感官にでもよるのか、それとも、偶然工場に舞い込んだ一匹が思いもかけぬ甘納豆の鉱山をなめ知っておおぜいの仲間に知らせたのか、自分には判断の手掛かりがない。 それはとにかく、現代日本の新聞の社会面記事として、こういうのは珍しい・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ふるえる手で当もなく手掛りのない扉の面を撫で廻しながら動物のような唸り声をつづけていた。何分くらいこの状態が続いたか分らないが自分には恐ろしく長いものに思われた。そのうちに軽い足音が廊下に聞えて浅利君が這入って来たので急いで呼びかけた。入口・・・ 寺田寅彦 「病中記」
出典:青空文庫