・・・しかし珍しい才女だった。ソロモンはかの女と問答をするたびに彼の心の飛躍するのを感じた。それはどういう魔術師と星占いの秘密を論じ合う時でも感じたことのない喜びだった。彼は二度でも三度でも、――或は一生の間でもあの威厳のあるシバの女王と話してい・・・ 芥川竜之介 「三つのなぜ」
・・・時の唇薄き群臣どもは、この事実を以て、アグリパイナの類まれなる才女たる証左となし、いよいよ、やんやの喝采を惜しまなかった。 アグリパイナの不幸は、アグリパイナの身体の成熟と共にはじまった。彼女の男性嘲笑は、その結婚に依り、完膚無きまでに・・・ 太宰治 「古典風」
・・・どういうところから出た伝説だか、あるいは才女の空想から生み出された事だか、とにかく現代人の思いも付かないような事を考えたものである。しかしこの清少納言のオーソリティが九百年もそのままに保存されて来たとすると、自然界に対する日本人の知識がいか・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・ 一九三〇年頃のヴェラ・インベルは洗煉された一人のソヴェトの女詩人で、未来派出身らしいスタイルを持った才女であった。 彼女の作品は気が利いていた。フランスの匂いがした。けれども率直にいってそれ以上の何ものであったろうか。今次大戦が始・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
出典:青空文庫