・・・ともかくもこれらの名前を一定の方式に従って統計的に取り扱い、その結果がよければ前提が是認され、悪ければ否定されるのである。 完全な材料はなかなか急には得難いので、ここではまず最初の試みとして東京天文台編「理科年表」昭和五年版の「本邦のお・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・ おひろは細君を亡くした森宗匠のところへ、納まりたい腹でいたが、宗匠も来るたんびにおひろを女房扱いにしているのであった。おひろは今でも辰之助の妹婿の山根に心が残っていたけれど、お絹に言わせると、金には切れ放れはよかったし、選びもおもしろ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・騎るわれは鬣をさかに扱いて前にのめる。戞と打つは石の上と心得しに、われより先に斃れたる人の鎧の袖なり」「あぶない!」と老人は眼の前の事の如くに叫ぶ。「あぶなきはわが上ならず。われより先に倒れたるランスロットの事なり……」「倒れた・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・酒のない猪口が幾たび飲まれるものでもなく、食いたくもない下物をむしッたり、煮えつく楽鍋に杯泉の水を加したり、三つ葉を挾んで見たり、いろいろに自分を持ち扱いながら、吉里がこちらを見ておらぬ隙を覘ッては、眼を放し得なかッたのである。隙を見損なッ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・これからさき生かして置いてくれるなら、己は決して他の人間を物の言えぬ着物のように、または土偶か何かのように扱いはせぬ。どんな詰まらぬ喜でも、どんな詰らぬ歎でも、己は真から喜んで真から歎いて見る積りだ。人生の柱になっている誠というものもこれか・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ 十六人の百姓どもが、顔をまるっきりまっ赤にして足で踏んで器械をまわし、小山のように積まれた稲を片っぱしから扱いて行く。藁はどんどんうしろの方へ投げられて、また新らしい山になる。そこらは、籾や藁から発ったこまかな塵で、変にぼうっと黄いろ・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・ 愛という字は、こんなきたならしい扱いをうけていていいでしょうか。 愛という言葉をもったとき、人間の悲劇ははじまりました。人類愛という声がやかましく叫ばれるときほど、飢えや寒さや人情の刻薄がひどく、階級の対立は鋭く、非条理は横行しま・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・大名に対する将軍家の取扱いとしては、鄭重をきわめたものであった。島原征伐がこの年から三年前寛永十五年の春平定してからのち、江戸の邸に添地を賜わったり、鷹狩の鶴を下されたり、ふだん慇懃を尽くしていた将軍家のことであるから、このたびの大病を聞い・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・「じゃ、気狂い扱いにされるでしょう。」「どうも、そう思ってるらしいですよ。」栖方はまた眼を上げて、ぱッと笑った。 それでは今日は栖方の休日にしようと云うことになって、それから梶たち三人は句を作った。青葉の色のにじむ方に顔を向けた・・・ 横光利一 「微笑」
・・・百人の内九十五人は町人形儀になり、残り五人は、人々に悪く言われ、気違い扱いにされて、何事にも口が出せなくなる。五人のうち三人は、ついに町人形儀と妥協し、あと二人はその家を去る。こうしてこの家中は、家老より小者に至るまで、意地ぎたない、人を抜・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫