・・・この経験から生きる目的を一変させた中尉ルドヴィッチは後を慕って来たクリスチアーナにむかって、自分はここから去ることは出来ない、去る気もないと彼女の愛をも拒む。それが終りとなっているのである。 私ども素人の目にはクリスチアーナに扮したラン・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 労働法が出来たけれども、国鉄従業員が尤もな待遇改善を求めると、当局はそれを拒むことの出来ない代りに、忽ち、運賃値上げをして、人民の負担に転化する。逓信院の値上げにしても同様である。何十万人という従業員は、やっといくらか給料がよくなった・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・その沈潜するこころもちをまぎらすように、わやわやとした声でかつて軍部に扈従して政治や文学を語った作家が、こんどは、軍事基地施設を拒むことは出来ないという吉田首相をとりまいて文学・政治を談じている。 これらの現実にかかわらず、地球は、今日・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・ 其は果して淋しさというべきだろうか 静けさなのではないか、 けれども、私は、その立ちのぼる煙の末が、淡く幽かに胸をすぎるとき、滲み出る涙が、眼に映る紛物を、おぼろにかすめさることを拒むことは出来ない。 十日 夜一時・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・そして、ある場合には、婦人の真の政治的な成熟のために、いたずらに画一的な、便宜主義の、判断のない、投票の数をかき集め式な目的をもつ婦人の政治的参加に対しては、婦人自ら追随を拒む必要も生じるであろう。婦人はあくまで自分たちの日常の生活をみきわ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・そして、彼女の道を遮り行く手を拒むあらゆるものに向って戦いが宣せられたのである。 これから、彼女にはまるで理由の分らなかった自分と周囲との不調和、内から湧こうとする力と、外から箍をかけて置こうとする力との、恐ろしい揉み合いの日が続いたの・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 父は唯一人の弟の好意を拒む理由も持たなかったし、又「神を試みる」には年を取り過ぎて居たので云う言葉通りに守って居たと云う事がある。 其れ故彼が自分の死の近いのを感じて生れた国に帰って来たのではなかったかと云う事が思われる。 兎・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・しかし、当時のギリシア人はこの巨人プロメシウスの人類的な貢献にたいして、天上と地上の支配者ジュピターは激怒するという想像を拒むことができなかった。プロメシウスが、ジュピターによって地球の骨といわれたコーカサスの山にしばりつけられ、日毎新しく・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・が、それを拒むほど、彼は若くていたくもなかったのである。 心がいつもいつも何かどんよりした、厚みのある霧のようなもので包まれていて、外から来るいろいろな刺戟は皆そこに溜って、しんまで滲み通らない。 そして、そのどんよりしたものの奥に・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・その人類共同の目的に向って参加して来る者は何者をも拒むまいとしている。国内的にそのことが言われると同時に、国際的にも同じ事情に置かれており、それぞれの国の知識人をこめての大衆が、自分たちの人間性をファシズムの轍から守ろうとする、その要求と行・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
出典:青空文庫