・・・膝ッ節も肘もムキ出しになっている絆纏みたようなものを着て、極小さな笠を冠って、やや仰いでいる様子は何ともいえない無邪気なもので、寒山か拾得の叔父さんにでも当る者に無学文盲のこの男があったのではあるまいかと思われた。オーイッと呼わって船頭さん・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・どうせ貧寒なのだから、木枯しの中を猫背になってわななきつつ歩いているのも似つかわしいのであろうが、そうするとまた、人は私を、貧乏看板とか、乞食の威嚇、ふてくされ等と言って非難するであろうし、また、寒山拾得の如く、あまり非凡な恰好をして人の神・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・ 鴎外の歴史小説が、その本質に於て作者の主観の傾向に沿って一般的な人間性の方向へひろがって行ったことは、「寒山拾得」にも十分うかがえるし、「じいさんばあさん」のような余韻漂渺たる短篇にもあらわれている。 この過程を通って、やがて鴎外・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・国清寺に拾得と申すものがおります。実は普賢でございます。それから寺の西の方に、寒巌という石窟があって、そこに寒山と申すものがおります。実は文殊でございます。さようならお暇をいたします」こう言ってしまって、ついと出て行った。 こういう因縁・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・あれが寒山と拾得とをかいたものである。寒山詩はその寒山の作った詩なのだ。詩はなかなかむずかしいと言った。 子供は少し見当がついたらしい様子で、「詩はむずかしくてわからないかもしれませんが、その寒山という人だの、それと一しょにいる拾得とい・・・ 森鴎外 「寒山拾得縁起」
・・・寒山拾得はその象徴である。しからば人はいかにして不死身となり得るか。我を没して自然の中に融け入ることができるからである。著者はこの境地の内に無限に深いもの、無限に強いものを認める。「悠々たる」観の世界はかかる否定の上に立つものにほかならぬ。・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫