・・・暗殺の目的は金や持物ではなくて、その旅人の有っている技能や智慧や勇気が魂魄と一緒に永久にその家に止まって、そのおかげでその家が栄えるようにという希望からだという事である。 これはずいぶん思い切って虫の好過ぎる話である。 しかしよく考・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・お絹はもう長いあいだ独身で通してきて、大阪へ行っている大きな子息に子供があるくらいだし、すっかり色の褪せた、おひろも、辰之助の話では、誰れかの持物になっていた。抱えは二人あったけれど、芸道には熱心らしかったけれど、渋皮のむけたような子はいな・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ ヒューマニズムの発祥点が、現代の社会の特徴によって雑階級的にあること、それぞれの性格的な持物を否定せぬままに前進しようとし、また、せざるを得ない客観的事情もあり、現代ヒューマニズムがプロレタリア・リアリズムと出発を異にするといわれてい・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・けれども、その面白さ、うまさが万が一にもブルジョア大衆作家の持物と同じ種類であったとしたらそれは問題外だ。 われわれはこの経済恐慌による支配階級のファッショ化に対して、失敗の中から起き上り起き上り、勇ましく闘う未組織大衆を書くだろう。だ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・サーシャの持物を見せて貰ってゴーリキイは、がっかりした。たよりない気がした。そして、堪らなくサーシャが可哀想になった。だが、サーシャはその一つ一つを丹念に眺めまわし大事そうに指先で撫でている。 この晩、自分の宝物で年下の小僧であるゴーリ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・九郎右衛門は花色木綿の単物に茶小倉の帯を締め、紺麻絣の野羽織を着て、両刀を手挟んだ。持物は鳶色ごろふくの懐中物、鼠木綿の鼻紙袋、十手早縄である。文吉も取って置いた花色の単物に御納戸小倉の帯を締めて、十手早縄を懐中した。 木賃宿の主人には・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・いつも身綺麗にしていて、衣類や持物に、その時々の流行を趁っている。或時僕が脚本の試みをしているのを見てこんな事を言った。「どうもあなたのお書きになるものは少し勝手が違っています。ちょいちょい芝居を御覧になったら好いでしょう」これは親切に言っ・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫