・・・また床上に流した石油に点火するときその炎の前面が花形に進行する現象からもまた、放射形柱状渦の存在を推定したことがあった。それの類推的想像と、もう一つは完全流体の速度の場と静電気的な力の場との類似から、例の不謹慎な空想をたくましくして、もしも・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ら、ことによるといわゆる颱風眼の上層に雲のない区域が出来て、そこから空の曙光が洩れて下層の雨の柱でも照らしたのではないかという想像もされなくはないが、何分にも確実な観察の資料がないから何らの尤もらしい推定さえ下すことも出来ない。 これに・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・凍雨の方は上層で出来た雨滴が下層の寒冷な空気を通過するうちにだんだん冷却して外部から氷結し始めるということは、内部に水や不透明の部分のある事から推定される。また中層の温暖な層の上に雪雲がある場合には、そこから落ちる雪片の一部は中層を通る時に・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・しかるに〇・五ミクロンはもはや黄色光波の波長と同程度で、網膜の細胞構造の微細度いかんを問わずともはなはだ困難であることが推定される。 視覚によらないとすると嗅覚が問題になるのであるが、従来の研究では鳥の嗅覚ははなはだ鈍いものとされている・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・またこれら分子がまた原子から成立している事も疑いない事で、分子中における原子結合の状況についても各方面から推定を下す手掛りが出来ている。前世紀の末頃までは原子までで事が足りていたが、真空中放電の研究や放射能性物質の研究から更に原子の内部構造・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・この問題に的確に答えるためには、勿論まず毒薬の種類を仮定した上で、その極量を推定し、また一人が一日に飲む水の量や、井戸水の平均全量や、市中の井戸の総数や、そういうものの概略な数値を知らなければならない。しかし、いわゆる科学的常識というものか・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・ この推定は、無根拠ではない。何故なら、旧い日本は一九四五年八月十五日にわれわれの内と外とで音たかく壊滅したはずだった。それだのに、きょうのわたしたちの現実にからみついて棲息している旧いものの力はどうだろう。それがいっそういとわしいこと・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・いきさつを描きたいことは全作家のひとしき願望ではあるが、著書もそれが社会性乏しくきわめて個人的なものであることを認めている反省的心理叙述を、横光利一のみでなく、私も一人の作家として同じく念願していると推定されるとすれば、それは現実の事情から・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・と推定して、現状を糊塗しているのである。けれども、戦争に男たちを召集して、第一番に家庭を破壊したのは、誰であったろう。外部の力に無判断に屈従する習慣を、熱心に日本人民の第二の天性としようとしたのは、何者であっただろうか。今日、婦人のモラルの・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・同じこの朝の新聞には、推定失業者五百八十三万人と出ている。三月までに八十三万人が就業と示されているが、この新しい就業者も、職場へ行くには電車がいるだろう、省線にものるだろう。 企業家のサボタージュを罰することも、是正する力も失っているの・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
出典:青空文庫