・・・ ところがある雑誌には一つの注目すべき小さい数行がありました。それはアメリカの若い大学生や勤労婦人たちは特にそういう人々の生活にふさわしい、よく洗濯のきく丈夫な、色のさめないように特別な染料で染めた服地を持っているということが書かれてい・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ 追々明治初期の文学の歴史を知るようになって、二葉亭四迷のことを読んだとき、非常に印象ふかい数行があった。四迷が「浮雲」を書いたのは明治二十年のことで、二十七歳の坪内逍遙先生が「小説神髄」をあらわし、「当世書生気質」を発表して「恰も鬼ケ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・真の勝利とは、どういうものであるかということを鳴りひびかせている数行があるだろう。 私たちは一日も早くその本を手にとって、一つ一つの文字は充分によめないとしても、ここに疑いもなく、人間の理性の環飾りがもたらされているということを感じたい・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・私ははからず率直にかかれた数行をよんで沈思せずにいられなかった。 今日の現実の再検討については、新年に創刊号を出した綜合雑誌『生きた新聞』が、注意をひく二つの論文をのせている。村松五郎氏「幽霊ファッショ論」がその一つである。日本に純・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・だが、その技術に立ってつかわないことを世界がアッピールでしたのは〔以下数行欠〕三、平和のためのたたかいは全く必要になって来た。だが石川達三、風にそよぐ葦〔以下数行欠〕〔欄外に〕一方に追放解除の精神・・・ 宮本百合子 「東大での話の原稿」
・・・ バンチ博士の話の中で次の数行に関心をひかれた人は少くないだろうと思う。「人間は社会関係の方面では、自然科学の方と同じような天才を示さない」「自然科学者は自然を制御することによって」「人間が人間自身を世界から消滅せしめ得るようなものを作・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・ この毅然とした数行には、この作家が断定しにくい問題に対したときに示す機智・燕がえしの修辞法は一つもない。真正面から、歴史の現実は、かくある、という事実を憚らず語っている。これは文学の言葉である。同時に政治の言葉でもある。なぜなら、政治・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・云々ということを書いたのにひどく拘泥して、バルザックの死に際して書いた文章の中にわざわざ今日の我々から見ると意味ふかい数行を書き加え、バルザックは批評を無視したことを言っている。サント・ブウヴはその感情的基礎に我れ知らず作用されて、バルザッ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・そのとき、ひろ子は、その本を手にもって、永い間、その数行の文字を見つめていた。そのときひろ子の胸に湧いた云いつくせない感情は、口で話せるものだろうか。 ひろ子は立ちあがって、書いている重吉の肩へ手をやった。「――どうした」「小説・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・わたくしはこの数行を書して一生の中為切とする。しかし中為切があるいはすなわち総勘定であるかも知れない。少くも官歴より観れば、総勘定もまたかくのごときにすぎない。 これが過去である。そして現在はなにをしているか。 わたくしはなにもして・・・ 森鴎外 「なかじきり」
出典:青空文庫