・・・僕はそれを見て卒倒し、二日間も発熱して臥てしまった。幼年時代はすべての世界が恐ろしく、魑魅妖怪に満たされて居た。 青年時代になってからも、色々恐ろしい幻覚に悩まされた。特に強迫観念が烈しかった。門を出る時、いつも左の足からでないと踏み出・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・そこで彼女は数日間仕事を求めて、街を、工場から工場へと彷徨うたのだろう。それでも彼女は仕事がなかったんだろう。「私は操を売ろう」そこで彼女は、生命力の最後の一滴を涸らしてしまったんではあるまいか。そしてそこでも愈々働けなくなったんだ。で、遂・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・―― 今度は、三ヵ月は娑婆で暮したいな、と思うと、凡そ百日間は、彼には娑婆の風が吹いた。家の構えで、その家がどんな暮し向きであるかを知った。顔や、帯の締め工合で、そいつが何であるかを見て取った。 だが、あの不敵な少年は、全で解らなか・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・第三、その仕事を一ぺん自分で二日間やって見る。以上。その通りやらないものは鳥の国へ引き渡す。」 さああまがえるどもはよろこんだのなんのって、チェッコという算術のうまいかえるなどは、もうすぐ暗算をはじめました。云いつけられるわれわれの目方・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・そのときあちこちの氷山に、大循環到着者はこの附近に於て数日間休養すべし、帰路は各人の任意なるも障碍は来路に倍するを以て充分の覚悟を要す。海洋は摩擦少きも却って速度は大ならず。最も愚鈍なるもの最も賢きものなり、という白い杭が立っている。これよ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ヘンリー・フォードが催したヨーロッパ早まわり競争に参加して、十日間に六千マイルを突破して一等になり、フォードより自動車を一台おくられたことがある。この早まわり競争の道づれも弟のクラウスであり、しかも早まわり記事を新聞におくり、あとから一冊に・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ところが十月は二十日間に予定の七一パーセントをみたした。組合員諸君及集団農民諸君! このテンポをおとすな!」そしてバタ生産に関する農村通信員の面白い批判が掲載されている。バタ工場の支配人を代えろ!バタ工場上ナザロフスキーの支配人・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・そこで五日間滞留して、ようよう九州行の舟に乗ることが出来た。四国の旅は空しく過ぎたのである。 舟は豊後国佐賀関に着いた。鶴崎を経て、肥後国に入り、阿蘇山の阿蘇神宮、熊本の清正公へ祈願に参って、熊本と高橋とを三日ずつ捜して、舟で肥前国・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ この游は安政二年乙卯四月六日に家を発し、五日間の旅をして帰ったものである。巻首に「きのとの卯といへるとし、同じ月始の六日」と云ってある。また巻末に添えられた六山寅の七古の狂詩に、「四海安政乙卯年」「袷衣四月毎日楽」「往来五日道中穏」等・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・金槌の音は三日間患者たちの安静を妨害した。一日の混乱は半カ月の静養を破壊する。患者たちの体温表は狂い出した。 しかし、この肺臓と心臓との戦いはまだ続いた。既に金網をもって防戦されたことを知った心臓は、風上から麦藁を燻べて肺臓めがけて吹き・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫