・・・年々鳥雀昆虫の多くなり行くこと気味わるきばかりなり。夕立おそい来る時窓によって眺むれば、日頃は人をも恐れぬ小禽の樹間に逃惑うさまいと興あり。巣立して間もなき子雀蝉とともに家の中に迷入ること珍らしからず。是れ無聊を慰むる一快事たり。・・・ 永井荷風 「夕立」
・・・実に不可思議千万なる事相にして、当時或る外人の評に、およそ生あるものはその死に垂んとして抵抗を試みざるはなし、蠢爾たる昆虫が百貫目の鉄槌に撃たるるときにても、なおその足を張て抵抗の状をなすの常なるに、二百七十年の大政府が二、三強藩の兵力に対・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 蝶、蜂、蟻などの物語は第十話第十一話にあるが、この章へ来てフランスのアンリ・ファーブルの「昆虫記」を思い出さない読者はおそらく一人もないだろう。ファーブルの昆虫記は卓抜精緻な観察で科学上多くの貢献をしているし、縦横に擬人化したその描写・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
最近、昆虫学の泰斗として名声のあった某理学博士が、突然に逝去された報道は、自分に、暫くは呆然とする程の驚きと共に、深い深い二三の反省ともいうべきものを与えました。故博士に就て、自分は何も個人的に知ってはおりません。 た・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・この家は、茅屋根であるゆえと、何かほかの原因でひどく昆虫が沢山いる。朝夕とも棲みしていると、ひとりでに、アンリ・ファブルの千分の一くらいの興味をそれ等の小さい生物に対して持つようになった。例えば、こうやって書いている今、すぐ前の障子に止って・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・それから、ファブルの昆虫記をすこし読んだが、これは何冊も読みつづけることが出来なかった。どういうことが読みつづけられない原因か考えていなかったのであるが、昨年本ばかり読んで暮さなければならない生活に置かれていた間に再びファブルやその伝記「科・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 土地の大抵は粘土めいたもので赤土と石ころが多く、乾いた処は眼も鼻も埋めて仕舞いそうな塵となって舞いのぼり、湿った処はいつまでも、水を吸収する事なくて不愉快な臭いを発したり、昆虫の住居になったりする。長年耕された土地でさえも肥料の入るわ・・・ 宮本百合子 「農村」
大体私は芝居の方へは御無沙汰がちで、素人としても大素人の方ですが、先だって久しぶりに「群盗」と「昆虫記」を観て、非常にいろいろ感銘を受けました。たくさんの疑問を感じました。前後して、『テアトロ』一月号の「演技批評への不満を・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
・・・で幸徳秋水以下三十余名の人々が検挙され、ファーブルの『昆虫の社会』という本まで社会という字がついていると云って発禁されるような、日本の社会主義弾圧のもとに暴力的な日韓合併が行われた年であった。この一九一〇年にコペンハーゲンで第二インターナシ・・・ 宮本百合子 「婦人デーとひな祭」
・・・アンリー・ファブルの昆虫記のようなものもよい本です。 質問外のことですが、此等を書きながら私の心に起ったことを言わせて下さい。結婚が最も冒険であり一大事であるのは、運命的な要点が他人の書いたどの本にも載っていないという事です。〔一九・・・ 宮本百合子 「嫁入前の現代女性に是非読んで貰いたい書籍」
出典:青空文庫