・・・その過程にイリフ、ペトロフは極めてユーモラスで辛辣で明快な調子で、ソヴェト社会の旧い考え旧い生きかたの諷刺を行っている。オスタップ・ベンデル自身の山師としての社会的存在の意義も、彼の哀れな失敗そのもので容赦なく批判されているのである。 ・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・植込まれた楓が、さびてこそおれ、その細そりした九州の楓だから座敷に坐って、蟹が這い出した飛石、苔むした根がたからずっと数多の幹々を見透す感じ、若葉のかげに一種独特な明快さに充ちている。茶室などのことを私は何も知らないが東京や京都で茶室ごのみ・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・ どうしたって、頭の明快な趣味の高い児にならせなければねえ。 じいっと眼をつぶると、レースのたっぷりついた短かい白い着物を着て、肩まで、丁寧にした巻毛をたれて、ムクムクした足で踊る様に足拍子を取って、私に手を引かれて歩く様子が、あざ・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・のどれもを貫いて流れているのは、日本の結核療養に必要な社会施設のとぼしさと、そこからおこる闘病の苦しく複雑な現実の思いである。ベティー・マクドナルドというアメリカの婦人作家が書いている「病気と私」の明快さ、諷刺をふくむ明るさが、鋭い対照をも・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・ 軍事状態の中にあって各自の文学的政治的軍事的知識を活用し、敏捷に明快に文学活動をやる稽古だから、ゆっくり構えていては何にもならない。規則をきめると、或る作家たちは一枚の封筒を渡された。中に、めいめいが書くべき主題・形式、長さを命令した・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・東洋、西洋、地球上のいろんな民族のプロレタリアートが独特の服装、風景、方法で、その民族独特の生産に従っているところを、明快な彩色画で説明したものである。綿花を栽培し、織物工場で働く耳輪だけ大きい痩せたインド人の後に、ヘルメット帽をかぶり、鼻・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・広々とした七月の空、数間彼方の草原に岬のように突出ている断崖、すべて明快で、呑気な赤帽の存在とともに、異国的風趣さえあった。 鎌倉は、海岸を離れると、山がちなところだ。私にとって鎌倉といえば、海岸より寧ろ幾重にも重なって続く山々――・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・完成後、反動的な mood の要求によりて此の、明快な、希望と生活力に満ちた大工と指物を業とする五十男の物語りが書かれたのだと云っている。 主人公は、作者の故郷である Burgundy の村民で、生粋の職人である。 自然のあらゆる美・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ 素直にその心持を受入れる人は、活溌な微笑の所有者であり、明快な理智の把持者である対象に、人間らしい心持で、いいなと思います。が、従来多くの男性を圧殺し続けて来た、所謂男らしさに心の歪けさせられた者は、憧憬をねじ向けて、嫌厭に突込んでし・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・と至極明快に断言しているのです。すると吉屋女史が、「ほんとうにお金の無い人との結婚はするものじゃありませんよ」というような意味のことを云っておられました。その応待を読むと思わず噴き出しますけれど、後で直ぐ何か厭やな気持がするのです。若い女の・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
出典:青空文庫