・・・すなわち芸術に対する感受性は必ずしも各人に普遍的なものではないから、ヴィエイが感得しないある物をケラーが感じるという可能性は残っている。 ヘレン・ケラーは生後十八ヶ月目に重い病のために彼女の魂と外界との交通に最も大切な二つの窓を釘付けさ・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・物理化学の諸般の方則はもちろん、生物現象中に発見される調和的普遍的の事実にも、単に理性の満足以外に吾人の美感を刺激する事は少なくない。ニュートンが一見捕捉しがたいような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知っ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ こういう現象の可能なのは、畢竟は人間の心の動き、あるいは言葉の運びに、一定普遍の方則、あるいは論理が存在するからである。作者は必ずしもその方則や論理を意識しているわけではないであろうが、少なくもその未知無意識の方則に従って行なわれる一・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・というものの批判が非常に複雑困難なものであって、その批判の標準に千差万別があり、従って十人十色の批評者によって十人十色の標準が使用されるから、そこに批判の普遍性に穴があり、そこへ依怙の私と差別の争いが入り込むのであろう。 ある学者甲が見・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・そしてそれがある程度の普遍性をもつものでなければならない。そうでなければ、人々は口々に饒舌っていても世界は癲狂院かバベルの塔のようなものである。 共通な言葉によって知識が交換され伝播されそれが多数の共有財産となる。そうして学問の資料が蓄・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・ もしもこのように災難の普遍性恒久性が事実であり天然の方則であるとすると、われわれは「災難の進化論的意義」といったような問題に行き当たらないわけには行かなくなる。平たく言えば、われわれ人間はこうした災難に養いはぐくまれて育って来たもので・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・もしそれが一家の批判を超越する場合には、批判その物の性質として普遍ならざるべからざる権威を内に具えているがためで、いわば相手と熟議の結果から得た自然の勢力に過ぎない。我々の背後にはただ他より優秀なる鑑賞力と、他より超越せる判断力があるのみで・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ そこで、あなた方の方でする仕事というものを見ると、普遍的即ち universal の性質を持っている。私どもの方は universal でなくて personal の性質を持っています。なお敷衍していえば、あなた方はまず公式を頭の中に・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・ このことは各人各様に、さまざまの具体的な感銘を通して、普遍的であったに違いない。もし、そのモメントの価値を、各作家が日本の大衆の歴史的経験の一部として血肉をもって自覚し、それを表現しようと努め、しかも、それは絶対に許そうとしなかった強・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・あの御著書全部を貫いている思想的傾向は、その普遍的な性質に於て、私共のものであるとさえ申せますでしょう。或る箇所では、宛然自分の心がそこに顕れて物語っているように感じました。其にしても、総ての感情、理智の燃焼を透し、到る所に貴女のろうたきい・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
出典:青空文庫