・・・そして約束の彼岸の中日が近づいてくると、私はいよいよ秋山さんの安否が気になってきて、はたして秋山さんは来るだろうかと、田所さんたちに会うたび言い言いしていたところ、ちょうど、彼岸の入りの十八日の朝刊でしたか、人生紙芝居の記事を特種にしてきた・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 四月一日の朝刊を見ると、「武田麟太郎氏急逝す」という記事が出ていた。 私はどきんとした。狐につままれた気持だった。真っ暗になった気持の中で、たった一筋、「あッ、凄いデマを飛ばしたな」 という想いが私を救った。「――今日・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・十一時頃、やっとお目ざめになり、新聞ないかあと言い、寝床に腹這いになりながら、ひとしきり朝刊の検閲をして、それから縁側に出て支那の煙草をくゆらす。「鬚を、剃らないか。」私は朝から何かと気をもんでいたのだ。「そんな必要も無いだろう。」・・・ 太宰治 「佳日」
・・・同時に反応的にまたこれらの機関の発達を刺激していることも事実であろうが、とにかく高速度印刷と高速度運搬の可能になった結果としてその日の昼ごろまでの出来事を夕刊に、夜中までの事件を朝刊にして万人の玄関に送り届けるということが可能になった、この・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
七月八日、朝刊によって、有島武郎氏が婦人公論の波多野秋子夫人と情死されたことを知った。実に心を打たれ、その夜は殆ど眠れなかった。 翌朝、下六番町の邸に告別式に列し、焼香も終って、じっと白花につつまれた故人の写真を見・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
出典:青空文庫