・・・ 眼の下にお土産物を売っている店がある。木地細工の盆や、茶たくや、こまや、玩具などを並べている。其の隣りには、果物店があった。また絵はがきをも売っている。稀に、明日帰るというような人が、木地細工の店に入っているのを見るばかりであるが、果・・・ 小川未明 「渋温泉の秋」
・・・ その隣りは木地屋である。背の高いお人好の主人は猫背で聾である。その猫背は彼が永年盆や膳を削って来た刳物台のせいである。夜彼が細君と一緒に温泉へやって来るときの恰好を見るがいい。長い頸を斜に突き出し丸く背を曲げて胸を凹ましている。まるで・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・机の上には二、三の雑誌、硯箱は能代塗りの黄いろい木地の木目が出ているもの、そしてそこに社の原稿紙らしい紙が春風に吹かれている。 この主人公は名を杉田古城といって言うまでもなく文学者。若いころには、相応に名も出て、二、三の作品はずいぶん喝・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・建物と建物とを繋いだ直線の快適な落付きと、松葉の薫がいつとはなししみこんだような木地のままの太い木材から来る感銘とが、与って力あるのだ。 黄檗の建物としてはどちらが純正なものなのか。或は唯造営者の気稟の相異だけでこうも違うのか。私共は解・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫