・・・天地創生の本源は何だとか、やかましい議論があります。科学と哲学と宗教とはこれを研究し闡明し、そして安心立命の地をその上に置こうと悶いている、僕も大哲学者になりたい、ダルウィン跣足というほどの大科学者になりたい。もしくは大宗教家になりたい。し・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ところがこの物我の境を超越すると云う事は、この講演の出立地であって、またあらゆる思索の根拠本源になります。したがって文芸の作物に対して、我を忘れ彼を忘れ、無意識に享楽を擅にする間は、時間も空間もなく、ただ意識の連続があるのみであります。もっ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・然るに鄙見はまったくこれに反し、人間の徳行を公私の二様に区別して、戸外公徳の本源を家内の私徳に求め、またその私徳の発生は夫婦の倫理に原因するを信ずるものなり。本来、社会生々の本は夫婦にあり。夫婦の倫、紊れずして、親子の親あり、兄弟姉妹の友愛・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・あの頃の事を思ってみれば、感情生活の本源まで溯って行く道がどんなにか平坦であっただろう。その恋しい昔の活きた証人ほど慕わしいものが世にあろうか。まだ人生と恋愛とが未来であった十七歳の青年の心持に、ただの二三十分間でもいいから戻ってみたい。あ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・―― 母性は非常に本源的なものであるが、それだけに無差別な横溢はしないものであると感じられる。しんから打込んだ男の子こそ生みたいのが母性の永遠の欲求である。過去の日本における結婚が女の生涯を縛りつけた重みの中には、生まされた子を育てると・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・生命の本源、生存の真髄は決して、ナレッジで啓かれ、触れられると思わない。大なる直覚、赤児のような透視無二無私に 瞳を放つ処に真の根源があると思う。我等は、教育の概念にあやまたれ社会人の 才に煩わされホメロ・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ 結婚するとき、マークはスーにとって本源的な彫刻への欲望を十分理解していた。それにもかかわらず、彼女がその仕事に熱中しある成功を獲てゆくと、良人としてのマークのひそかな苦悩は次第につのった。婚約時代にもマークはスーがおりおり自分の手をぬ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・全体的に見て、今日の新聞そのものの性質が、明治初年の天下の公器としての自由性を失われているのであるから、現象的にニュースの断片を注ぎ込まれ、物価騰貴とその末葉のやりくりを知らされても、事象の本源までは新聞では迚も分らなくなって来ている。・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・そして最も強壮な精神だけがこの調和しがたい二つの本源的なものを、調和せしめ得る。 ○文学者への扱いかたのむずかしさの核もここにある。◎ドストイェフスキーの文化上の貢献の意味ふかいものは自己認識の巨大な拡大 である。p.254・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・この生々しく切迫し、本源的に八〇年代のインテリゲンツィアの非行動的な煩瑣饒舌に反抗している若者の内面的吐露を、彼の教師の一人であった数学の学生は、さて、どう理解したであろうか。「言葉じゃないよ、錘だ!」 これがその学生の批評である。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫