・・・ 玉川の川原では工兵が架橋演習をやっていた。あまりきらきらする河原には私の捜すような画題はなかったので、川とこれに並行した丘との間の畑地を当てもなく東へ歩いて行った。広い広い桃畑があるが、木はもうみんな葉をふるってしまって、果実を包んだ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・「あああれ工兵の旗だねえ。架橋演習をしてるんだ。けれど兵隊のかたちが見えないねえ。」 その時向う岸ちかくの少し下流の方で見えない天の川の水がぎらっと光って柱のように高くはねあがりどぉと烈しい音がしました。「発破だよ、発破だよ。」・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・私どもはその架橋工事に参加する世代としての権利をもっているのである。浮浪児の社会人的教化は決して、感化院の中からの努力だけでは成就されない。それらを包蔵する社会の全面的、根本的前進があってはじめて可能であり、やがて同じ浮浪児でもその発生の社・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・低い黒煙とともに流れる。架橋工事の板囲から空へ突出た起重機の鉄の腕が遠く聳えるウェストミンスタア寺院の塔の前で曲っている。河岸でも葉は黄色かった。トラックのタイアに黄葉が散ってくっついて走った。 PELL《ペル》――MELL《メル》・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫