・・・私は空に浮んだ雲を見ながら、この地方の山中に伝説している、古い口碑のことを考えていた。概して文化の程度が低く、原始民族のタブーと迷信に包まれているこの地方には、実際色々な伝説や口碑があり、今でもなお多数の人々は、真面目に信じているのである、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・西洋人と東洋人とを比較すると、概してみな我々東洋人は、非社交的な瞑想人種に出来上ってる。孤独癖ということは、一般的には東洋人の気質であるかも知れないのだ。深山の中に唯一人で住んでる仙人なんていうものは、おそらく西洋人の知らない東洋の理念であ・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・聞て初の程は大に疑いしが、遂に事実の実を知り得て乃ち云く、自分は既に証明を得たれども、扨帰国の上これを婦人社会の朋友に語るも容易に信ずる者なく、却て自分を目し虚偽を伝うる者なりとして、爾余の報告までも概して信を失うに至る可し、日本の婦人は実・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ この全編の大略を概していえば、天下の人心、直接すればその交をまっとうすべからず。今の世間に、この流行病あり。開国以来、我が日本の人心は、守旧と改進と二流に分れて、今の政府は改進の方にあるものなり。然るに、改進の学者流と政府との間に不和・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ 右所論の得失を概していえば、官学校は教育入用の財あれども、この財を用いて人を教うるの術に乏し。私学校は人を教えて世の裨益をなすべき術に富めるといえども、この術を実地に施すべき財に貧なり。ゆえに、学校を建つるの要訣は、この得失を折衷して・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ただしその品行の厳と風致の正雅とに至ては、未だ昔日の上士に及ばざるもの尠なからずといえども、概してこれを見れば品行の上進といわざるを得ず。 これに反して上士は古より藩中無敵の好地位を占るが為に、漸次に惰弱に陥るは必然の勢、二、三十年以来・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・よくその子の性質を察して、これを教えこれを導き、人力の及ぶ所だけは心身の発生を助けて、その天稟に備えたる働きの頂上に達せしめざるべからず。概していえば父母の子を教育するの目的は、その子をして天下第一流の人物、第一流の学者たらしめんとするにあ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・広く外国と交を結び、約束に信を失わず、貿易に利を失わしめざる者も、この子女ならん。概してこれをいえば、文明開化の名を実にし、わが日本国をして九鼎大呂より重からしめんには、この子女に依頼せずして他に求むべきの道あらざるなり。 民間に学校を・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ そもそも義塾の生徒、その年長ずるというも、二十歳前後にして、二十五歳以上の者は稀なるべし。概してこれを弱冠の年齢といわざるをえず。たとい天稟の才あるも、社会人事の経験に乏しきは、むろんにして、いわば無勘弁の少年と評するも不当に非ざるべ・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・昔の馬鹿侍が酔狂に路傍の小民を手打にすると同様、情け知らずの人非人として世に擯斥せらる可きが故に、斯る極端の場合は之を除き、全体を概して言えば婚姻法の実際に就き女子に大なる不平はなかる可し。一 父母が女子の為めに配偶者を求むるは至極の便・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫