・・・船舶工学方面の研究では、波浪による船のヨーイングに関するもの、同じくドリフトに関するもの、いずれも理論的計算のみならず、簡単な模型実験を行ってその結果を比較したものである。これらは英国造船協会の雑誌に掲載され、当時の学界の注意を引いたもので・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・そこで今度は飛行機翼の模型を作って風洞で風を送って試験してみたところがある風速以上になると、補助翼をぶらぶらにした機翼はひどい羽ばたき振動を起こして、そのために支柱がくの字形に曲げられることがわかった。ところが、前述の現品調査の結果でもまさ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ ある町の角をまがって左側に蝋細工の皮膚病の模型を並べた店が目についた。人間の作ったあらゆる美しくないものの中でもこれくらい美しくないものもまれである。きょうのような日に見るとその醜さがさらに強められる、こんなものや菊人形などというもの・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・人間対人間の関係というものがいかに複雑多様なものであるかを示す模型のようなものである。人情と義理と利害をXYZの座標とする空間に描きだされた複雑極まりない曲面の集合の一つの切り口が見える。これをじっと眺めていると、面白くもあれば恐ろしくもあ・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・かく完全な模型を標榜して、それに達し得る念力をもって修養の功を積むべく余儀なくされたのが昔の徳育であります。もう少し細かく申すはずですが、略してまずそのくらいにして次に移ります。 さてこういう風の倫理観や徳育がどんな影響を個人に与えどん・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・この模型をごらんなさい。」 先生は中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸レンズを指しました。「天の川の形はちょうどこんななのです。このいちいちの光るつぶがみんな私どもの太陽と同じようにじぶんで光っている星だと考えます。私ども・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・向こうは大きな黒い壁になっていて、そこにたくさんの白い線が引いてあり、さっきのせいの高い目がねをかけた人が、大きな櫓の形の模型をあちこち指さしながら、さっきのままの高い声で、みんなに説明しておりました。 ブドリはそれを一目見ると、ああこ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・「ほんとうの美はそんな固定した化石した模型のようなもんじゃないんです。対称の法則に叶うって云ったって実は対称の精神を有っているというぐらいのことが望ましいのです。」「ほんとうにそうだと思いますわ。」樺の木のやさしい声が又しました。土・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・卓の上には地球儀がおいてありましたしうしろのガラス戸棚には鶏の骨格やそれからいろいろのわなの標本、剥製の狼や、さまざまの鉄砲の上手に泥でこしらえた模型、猟師のかぶるみの帽子、鳥打帽から何から何まですべて狐の初等教育に必要なくらいのものはみん・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・その六十里の海岸を町から町へ、岬から岬へ、岩礁から岩礁へ、海藻を押葉にしたり、岩石の標本をとったり、古い洞穴や模型的な地形を写真やスケッチにとったり、そしてそれを次々に荷造りして役所へ送りながら、二十幾日の間にだんだん南へ移って行きました。・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫