・・・たりとも解るものでない、精神的に茶の湯の趣味というものを解していない族に、茶の端くれなりと出来るものじゃない、客観的にも主観的にも、一に曰く清潔二に曰く整理三に曰く調和四に曰く趣味此四つを経とし食事を緯とせる詩的動作、即茶の湯である、一家の・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・濁世にはびこる罪障の風は、すきまなく天下を吹いて、十字を織れる経緯の目にも入ると覚しく、焔のみははたを離れて飛ばんとす。――薄暗き女の部屋は焚け落つるかと怪しまれて明るい。 恋の糸と誠の糸を横縦に梭くぐらせば、手を肩に組み合せて天を仰げ・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・法及び現今とても教育上では好んで義務を果す敢為邁往の気象を奨励するようですがこれは道徳上の話で道徳上しかなくてはならぬもしくはしかする方が社会の幸福だと云うまでで、人間活力の示現を観察してその組織の経緯一つを司どる大事実から云えばどうしても・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・文芸の目的が徳義心を鼓吹するのを根本義にしていない事は論理上しかるべき見解ではあるが、徳義的の批判を許すべき事件が経となり緯となりて作物中に織り込まれるならば、またその事件が徳義的平面において吾人に善悪邪正の刺戟を与えるならば、どうして両者・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・この種の理想は無論幾多の作物中に経となり緯となりて織り込まれているには相違ないが、これが現代の理想だと云うには、遥に微弱すぎると思います。それでは荘厳だろうか。荘厳が現代の理想ならばいささか頼母しい気持もするが、実際はかえって反対である。現・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫