・・・けれども、その出版の仕事も、紙の買入れ方をしくじったとかで、かなりの欠損になり、夫も多額の借金を背負い、その後仕末のために、ぼんやり毎日、家を出て、夕方くたびれ切ったような姿で帰宅し、以前から無口のお方でありましたが、その頃からいっそう、む・・・ 太宰治 「おさん」
・・・薬を飲ませて裸にしといちゃ差引零じゃないか、卵を食べさせて男に蹂躙されりゃ、差引欠損になるじゃないか。そんな理窟に合わん法があるもんかい」「それがどうにもならないんだ。病気なのはあの女ばかりじゃないんだ。皆が病気なんだ。そして皆が搾られ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ところがそれがこの頃の薬品の価格の変動でだんだん欠損になって、どうにもしかたなくなったのです。わたくしはいろいろやって見ましたがどうしてもいけなかったのです。もちろんあの事業にはわたくしの全財産も賭してあります。すると重役会で、ある重役がそ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・「欠損をしている」のは、帳面づらだけだと、誰にも分りきった軍需生産者、つまるところは、戦争で儲けつくした者たちに、何故か幣原内閣は、なおも追銭をやらなければならない義理を感じているのである。戦争中、人民から集めた国防献金は七億円あまった。そ・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
出典:青空文庫