・・・これらや歌人の歌枕なるべきとて 関守のまねくやそれと来て見れば 尾花が末に風わたるなり 薄の句を得たり。 大方はすゝきなりけり秋の山 伊豆相模境もわかず花すゝき 二十余年前までは金紋さき箱の行列・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・「先代をくわしく知るものはないがなんでも都の歌人でござったそうじゃが歌枕とかをさぐりにこのちに御出なさってから、この景色のよさにうち込んで、ここに己の骨を埋めるのだと一人できめて御しまいなされ京からあととりの若君、――今の殿が許婚の姫君・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・旅人は八十になる白い頭巾をかぶって大キイ目鏡をかけた祖母に教えられてその住む村から七里西にある水の青い山の紫な乙女の頬の美くしい国へ歌枕さぐりに行くんです。細い小さい雪はかたまって大きい形になって落ちて来ます。 みどり色のこいマントの上・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫