・・・大丈夫、ざあざあ洗って洗いぬいた上、もう私が三杯ばかりお毒見が済んでいますから。ああ、そんなに引かぶって、襟が冷くありませんか、手拭をあげましょう。」「一滴だってこぼすものかね、ああ助かった。――いや、この上欲しければ、今度は自分で歩行・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・……お恥かしい身体ですが、お言のまま、あの、お宿までもお供して……もしその茸をめしあがるんなら、きっとお毒味を先へして、血を吐くつもりでおりました。生命がけでだましました。……堪忍して下さいまし。」「何を言うんだ、飛んでもない。――さ、・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・火鉢を隔てたのが請取って、膝で覗くようにして開けて、「御馳走様ですね……早速お毒見。」 と言った。 これにまた胸が痛んだ。だけなら、まださほどまでの仔細はなかった。「くすくす、くすくす。」 宗吉がこの座敷へ入りしなに、も・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・十四歳のとき忠利に召し出されて、知行百石の側役を勤め、食事の毒味をしていた。忠利は病が重くなってから、橋谷の膝を枕にして寝たこともある。四月二十六日に西岸寺で切腹した。ちょうど腹を切ろうとすると、城の太鼓がかすかに聞えた。橋谷はついて来てい・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫