スタンダアルとメリメとを比較した場合、スタンダアルはメリメよりも偉大であるが、メリメよりも芸術家ではないと云う。云う心はメリメよりも、一つ一つの作品に渾成の趣を与えなかった、或は与える才能に乏しかった、と云う事実を指したの・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・の材料は、昔、高木さんの比較神話学を読んだ時に見た話を少し変えて使った。どこの伝説だか、その本にも書いてなかったように思う。○新小説へ書いた「煙管」の材料も、加州藩の古老に聞いた話を、やはり少し変えて使った。前に出した「虱」とこれと、来・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・ 小樽の活動を数字的に説明して他と比較することはなかなか面倒である。かつ今予はそんな必要を感じないのだから、手取早くただ男らしい活動の都府とだけ呼ぶ。この活動の都府の道路は人もいうごとく日本一の悪道路である。善悪にかかわらず日本一と名の・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・ 一樹の囁く処によれば、こうした能狂言の客の不作法さは、場所にはよろうが、芝居にも、映画場にも、場末の寄席にも比較しようがないほどで。男も女も、立てば、座ったものを下人と心得る、すなわち頤の下に人間はない気なのだそうである。 中にも・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 椿岳を応挙とか探幽とかいう巨匠と比較して芸術史上の位置を定めるは無用である。椿岳は画人として応挙や探幽と光を争うような巨人ではない。が、応挙や探幽の大作の全部を集めて捜しても決して発見されない椿岳独特の一線一画がある。椿岳には小さいな・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・二葉亭が苦悶を以て一生を終ったに比較して渠らは大いなる幸福者である。 明治の文人中、国木田独歩君の生涯は面白かった。北村透谷君の一生もまた極めて興味がある。が、二葉亭の一生はこれらの二君に比べると更に一層意味のある近代的の悶えと艱みの歴・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・しかしその比較的に少きこの害すらダルガスの事業によって除かれたのであります。 かくのごとくにしてユトランドの全州は一変しました。廃りし市邑はふたたび起りました。新たに町村は設けられました。地価は非常に騰貴しました、あるところにおいては四・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 乳飲児の時代から、ようやく独り歩きをする時代、そして、学校時代と考うるさえその過程の長いことは、かの他の動物に於けるとは比較にならない。病気をさせない心配から、病気になった時の心配、また、怪我をさせないように注意することから、友達の選・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・くまは、かごの格子の目から、大きな体に比較して、ばかに小さく見える頭をば上下に振って、あたりをながめていました。「なるほど、ここは家ばかりしか見えませんね。私は、ここまでくる長い間、どれほど、あなたがたが自由にすめる、いい場所を見てきた・・・ 小川未明 「汽車の中のくまと鶏」
・・・という比較的長い初期の短篇は、大阪の男が自分の恋物語を大阪弁で語っている形式によっており、地の文も会話もすべて大阪弁である。谷崎潤一郎氏の「卍」もやはり、大阪の女が自分の恋物語を大阪弁で語っている形式である。この二つの大阪弁の一人称小説を比・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
出典:青空文庫