・・・柄な風采の上らぬ人で、板場人や仲居に指図する声もひそびそと小さくて、使っている者を動かすよりもまず自分が先に立って働きたい性分らしく、絶えず不安な眼をしょぼつかせてチョコチョコ動き、律儀な小心者が最近水商売をはじめてうろたえているように見え・・・ 織田作之助 「世相」
・・・丸万を出ると、歌舞伎の横で八卦見に見てもらった。水商売がよろしいと言われた。「あんたが水商売でわては鉱山商売や、水と山とで、なんぞこんな都々逸ないやろか」それで話はきっぱり決った。 帰って柳吉に話すと、「お前もええ友達持ってるなア」とち・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・いろいろ考えて、照枝も今まで水商売だったから、やはりこんども水商売の方がうまにあうと坂田はあやしげな易判断をした。 そして、同じやるなら、今まで東京になかった目新しい商売をやって儲けようと、きつねうどん専門のうどん屋を始めることになった・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・それならばいっそ新太郎の云うように水商売に入れた方がかえって素行も収まるだろう。もともと水商売をするように生れついた女かも知れない、――そう考えると父親も諦めたのか、「じゃそうしねえ」と、もう強い反抗もしなかった。 安子はやがて新太・・・ 織田作之助 「妖婦」
出典:青空文庫