・・・日六日にわたる地震には東海、東山、北陸、山陽、山陰、南海、西海諸道ことごとく震動し、災害地帯はあるいは続きあるいは断えてはまた続いてこれらの諸道に分布し、至るところの沿岸には恐ろしい津波が押し寄せ、震水火による死者三千数百、家屋の損失数万を・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・意味に用られていない、わがいわゆる乗るは彼らのいわゆる乗るにあらざるなり、鞍に尻をおろさざるなり、ペダルに足をかけざるなり、ただ力学の原理に依頼して毫も人工を弄せざるの意なり、人をもよけず馬をも避けず水火をも辞せず驀地に前進するの義なり、去・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ 道楽と職業、一方に道楽という字を置いて、一方に職業という字を置いたのは、ちょうど東と西というようなもので、南北あるいは水火、つまり道楽と職業が相闘うところを話そうと、こういう訳である。すなわち道楽と職業というものは、どういうように関係・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ ブリッジは、水火夫室と異って、空気は飴のように粘ってはいなかった。 船の速度丈けの風があった。そこでは空気がさらさらしていた。 殊に、そこは視野が広くて、稀には船なども見ることが出来たし、島なども見えた。 フックラと莟のよ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ わたしたちの生活の下で、ある種の言葉は、この半世紀の間に、全く水火をくぐって、傷だらけにされて来た。たとえば愛という言葉。正義という言葉。そして純潔という言葉もその仲間にはいる。 ヨーロッパの社会では第一次大戦のころから純潔に対す・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・時空的なものに制御を受けつつも、制御を与える時空的なものと、それを蒙っている自己の状況に対して見開かれている眼と、水火に在っても動かされている手足とを失ってはいないのが現実であろうと思う。 さもなければ、動くものとして人間が動かしている・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫