・・・この二氏の内の意見についての僕の考えを兄に報ずるに先立って、しつこいようだけれども、もう一度繰り返しておかなければならないのは、あの宣言なるものは僕一個の芸術家としての立場を決めるための宣言であって、それをすべての他の人にまであてはめて言お・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ただ一言いっておきたいのは僕たちは第四階級というと素朴的に一つの同質な集団だと極める傾向があるが、これはあまりに素朴過ぎると思う。ブルジョア階級と擬称せられる集団の中にも、よく検察してみるとブルジョア風のプロレタリアもいれば、プロレタリア風・・・ 有島武郎 「片信」
・・・たかだか堰でめだかを極めるか、古川の浅い処で、ばちゃばちゃと鮒を遣るだ。 浪打際といったって、一畝り乗って見ねえな、のたりと天上まで高くなって、嶽の堂は目の下だ。大風呂敷の山じゃねえが、一波越すと、谷底よ。浜も日本も見えやしねえで、お星・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・「くじを引いて決めることにしようか。」と、ある男はいいました。「俺は、怖ろしくていやだ。」「俺もいくのはいやだ。」「…………」 みんなは、後退りをしました。それでついに、救いに出かけるものはありませんでした。みんなは、口・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・題を決めるのに一日、構想を考えるのに一日、たのまれてから書き出すまでに二日しか費さなかったぐらいだから、安易な態度ではじめたのだが、八九回書き出してから、文化部長から、通俗小説に持って行こうとする調子が見えるのはいかん、調子を下すなと言われ・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・とにかく僕はこれから会場へ行ってみて、誰か来てるだろうから様子を聞いた上で、僕も出席するしないを決めるつもりだから。そして僕も出席するようだったら、君を迎えに来るから、「いやとにかく僕は出席したくないから、そうしないでくれたまえ」と、私・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ 久助爺はけろりとした顔つきでこう繰返すので、耕吉は気乗りはしなかったが、結局これに極めるほかなかった。…… 月々十円ばかしの金が、借金の利息やら老父の飲代やらとして、惣治から送られていたのであった。それを老父は耕吉に横取りされたと・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ということを決める以外それ自身のなかにはなんら解決の手段も含んでいない事柄なのであるが、たとえ吉田は漠然とそれを感じることができても、身体も心も抜き差しのならない自分の状態であってみればなおのことその迷妄を捨て切ってしまうこともできず、その・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・故にその芸術を一生の仕事としようとする者は、初めに堅く志を立てて如何なる困難に出会っても撓まず、その奥義を極めるまでは死すとも止めないほどの覚悟をしなくてはならない。一、身体を大切にせねばならない。仕事には非常の根気とエ・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
・・・をやりました。 吉は全敗に終らせたくない意地から、舟を今日までかかったことのない場処へ持って行って、「かし」を決めるのに慎重な態度を取りながら、やがて、 「旦那、竿は一本にして、みよしの真正面へ巧く振込んで下さい」と申しました。これ・・・ 幸田露伴 「幻談」
出典:青空文庫