・・・拝式の私小説家の立場から、岡本かの子のわずかに人間の可能性を描こうとする努力のうかがわれる小説をきらいだと断言する上林暁が、近代小説への道に逆行していることは事実で、偶然を書かず虚構を書かず、生活の総決算は書くが生活の可能性は書かず、末期の・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・これは芭蕉の一生涯の総決算でありレジュメであると同時にまたすべての人間の一生涯のたそがれにおける感慨でなければならない。それはとにかく、自分の子供の時分のことである。義兄に当たる春田居士が夕涼みの縁台で晩酌に親しみながらおおぜいの子供らを相・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・ その後偶然にたいへんに親切で上手でぐあいのいい歯医者が見つかってそれからはずっとその人にやっかいになって来たが、先天的の悪い素質と後天的不養生との総決算で次第にかんで食えるものの範囲が狭くなって来た。柔らかい牛肉も魚のさし身もろくにか・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・それかといって棺桶や位牌のごとく生活の決算時の入用でもない。まずなければないでも生きて行くだけにはさしつかえはないもののうちに数えてもいいように思われる。実際今でも世界じゅうには生涯一冊の書物も所有せず、一行の文章も読んだことのない人間は、・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ このような可能性への探究の第一歩を進めるための一つの手掛かりは、上記のごとき統計的質的現象の周到なる実験的研究と、それの結果の質的整理から量的決算への道程の中に拾い出されはしないであろうか。 要するに、従来のいわゆる統計物理学は物・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ この意味においてイズムは会社の決算報告に比較すべきものである。更に生徒の学年成績に匹敵すべきものである。僅一行の数字の裏面に、僅か二位の得点の背景に殆どありのままには繰返しがたき、多くの時と事と人間と、その人間の努力と悲喜と成敗とが潜・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・型そのものが、何のために存在の権利を持っているかというと、前にもお話した通り内容実質を内面の生活上経験することができないにもかかわらずどうでも纏めて一括りにしておきたいという念にほかならんので、会社の決算とか学校の点数と同じように表の上で早・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・この間支配人はクラスノヤルスク村へ牛乳買上決算に出かけた。そこで彼は三昼夜べろべろにのんだくれ、その結果として、バタ工場に属す馬をどっかへなくしてしまった。グロデーエフは三頭馬をもっている。以前グロデーエフは何人か小作人をもっていた・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 昭和十四年度の文学の総決算というとき、多くの人によって、この二三年混乱していた文学がやや落付いて来た、内省的になって来たと云われていた。それは或る意味では実際に即した概括であったと思う。けれども、内省的ということも、主として各作家の主・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・たとえば昭和十四年度の日本文学の総決算を一読した人々は、そこに本年度の特徴として、婦人作家の活動という一項があったことに注目されたろうと思う。とにかく明治以来の文学史であまり前例のない数の婦人作家たちが文壇に作品を送りその評価を問うたのであ・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫