・・・雄々しいフランスの婦人たちは、フランスが歴史の波瀾を凌いでゆく時々に、いつもその陣頭に旗をかざして進んだ。日本の婦人ばかりが、その熱情さえもたないと、誰が云い得よう。人民、女性の歴史にとって屈辱のしるしのように強いても握らされた白と赤との日・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 技術的に諷刺的表現の或る自由さを身につけた頃、小熊さんや私の属していた文学の団体は解かれて、その前後の時代的な社会と文学との波瀾の間で小熊さんの諷刺性は、周囲の刺激に対して鋭く反応せずにいられない特性とともに、何処となく諷刺一般におち・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・ 生活の環がひろがり高まるにつれて女の心も男同様綺麗ごとにすんではいないのだし、それが現実であると同時に、更にそれらの波瀾の中から人間らしい心情に到ろうとしている生活の道こそ真実であることを、自分にもはっきり知ることが、女の心の成長のた・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・の続篇は、波瀾の多い四分の一世紀をへて、今「二つの庭」「道標」、なおそのあとにつく作品として執筆されつつある。「伸子」の中のむずかしい漢字は、今日の読者のためにかなに直した。 一九四八年九月〔一九四九年二月〕・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・ この十数年間は、作者の生活波瀾もはげしく、度々の検挙や投獄で、三二年ごろ書いたソヴェト報告は四散したままにすてておかれた。このたび、幾人かの友人たちの熱心な協力によって、その大部分が集められた。そして、選集第八巻、九巻をみたすこととな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・この極めて興味のある文学上の課題はすべての人々がみているとおり今日またちがった歴史の段階に立って、解決され切らない課題として複雑な波瀾のうちにおかれているのである。 当時のわたしは、無産派の文学運動の本質をよく理解していなかった。無産派・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・その後野沢富美子さんは、さまざま生活の波瀾に苦しい経験を重ねた末、一九四五年共産党に入党した。それから結婚した。党員小池富美子として発表された「女子共産党員の手記」は、まだ多分に、この作者が幼時の環境からしみこまされていたアナーキスティック・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・からのち幾多の人間形成の波瀾を経験して、いまジェネヴァに来ている。彼は国際革命家集団に属している。そして、ジェネヴァで、第一次ヨーロッパ大戦のはじまる前後のきわめて切迫した国際情勢にふれる。 やがて、第一次ヨーロッパ大戦にまきこまれたジ・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ 社会の歩みは日本の今日の若い世代を片脚だけ鎖の切れたプロメシゥスのような存在にしているから、両性の友情の条件も実に波瀾重畳の趣である。男と女とのつき合いはまだまだ特殊な目で見られているのだから、どうしても、一方には責任を負わないことを・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・これからの幾波瀾のなかで、あなたの鉛筆、そしてわたしたちすべてのものの鉛筆が、真に懐中するに足りるものであるためには、どれだけかの勉学と堅持とがいることでしょう。詩人よ、すぐれた天質を高めよ。詩が理性のうたであるときいて、しりごみした旧い詩・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
出典:青空文庫