・・・たとえば当世の上臈の顔は、唐朝の御仏に活写しじゃ。これは都人の顔の好みが、唐土になずんでいる証拠ではないか? すると人皇何代かの後には、碧眼の胡人の女の顔にも、うつつをぬかす時がないとは云われぬ。」 わたしは自然とほほ笑みました。御主人・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・などもこの種の世話、心づかいが豊富に盛られているためにどれほど母らしさの愛が活写されているか知れない。母牛が犢をなめるような愛は昔から舐犢の愛といって悪い方の例にされているけれども、そういう趣きがなくなっては、母の愛は去勢されるのだ。 ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・私はこの短篇小説に於いて、女の実体を、あやまち無く活写しようと努めたが、もう止そう。まんまと私は、失敗した。女の実体は、小説にならぬ。書いては、いけないものなのだ。いや、書くに忍びぬものが在る。止そう。この小説は、失敗だ。女というものが、こ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・私はそれをここで、二、三語を用いて断定するよりも、彼のその日のさまざまの言動をそのまま活写し、以て読者の判断にゆだねたほうが、作者として所謂健康な手段のように思われる。 彼は「俺の東京時代は」という事を、さいしょから、しきりに言っていた・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・なぞという挨拶にはじまる女人の実体を活写し得ても、なんの感激も有難さも覚えないのだから、仕方がないのである。私は、ひとりになっても、やはり、観念の女を描いてゆくだろう。五尺七寸の毛むくじゃらの男が、大汗かいて、念写する女性であるから笑い上戸・・・ 太宰治 「女人創造」
・・・その場の切迫した光景と、その時の綿々とした情緒とが、洗練された言語の巧妙なる用法によって、画よりも鮮明に活写されている。どうでも今日は行かんすかの一句と、歌麿が『青楼年中行事』の一画面とを対照するものは、容易にわたくしの解説に左袒するであろ・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・別の言葉でいうと、作者は、作者にとって身近な女主人公の生活を、客観的にひろい社会性の繋りにおいて観て、その喜憂と努力と苦悩とを芸術の中に掌握し活写することを得なかった。作者は、困難な課題をふくんだ生活の部分をその実際生活と作品の構成からどこ・・・ 宮本百合子 「二つの場合」
出典:青空文庫