・・・けれども、それは一人の作家を貫いて、あちらとこちらに流露している人間的情感としてだけ止るのだろう。中野重治の「五勺の酒」に含まれている多くの問題は、彼の『議会演説報告集』の内容とどのように連関しているかということについても、わたしたちはもっ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・自由な人間性の流露とは正に反対の手法である。 今日働く婦人として生活している若い女性たちの実感が、もしそのような芸術の手法にぴったりとするものであるとするならば、私たちはそこに深刻な問題を感じなければならないと思う。今日の日本の二十歳前・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・日本は、いく久しい封建の社会生活の間に、文学はいつもある意味で人間性の流露をもとめるその本質にしたがって、苦しい現実からの脱出であり、主情的ならざるをえなかった。自然主義の流れさえ、日本文学の伝統の岸にうちよせれば、それはおのずから変化して・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 数年前に亡くなった母の晩年なども、なまじいそういう祖父の思い出が母のなかに一種の崇拝と一緒にのこっていたために、娘としての情愛だけがすらりと流露せず、現実にはおのずとその愛に結びついて行って、そこにある一定の傾向に支配されることがつの・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・しかも、当時一般の心理は、このような歴史的文学の題材とテーマに対しては極めて複雑にふれて行っていて、一定の経歴をもった作者たちが自身の傷敗の歌を痛ましげに呻けば呻くほど、人間性の流露としてそれを高く評価したい感情の傾きにおかれていたことは興・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ひろ子の実際的な、感情の流露しない大人びたところを思うとあわれ。又、倉知の子が、休の日に家に居ず活動をあさるのもあわれ。 頼られる人 Jane Eyre をよみつつ。 p. 144 に Rochester が o・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・二郎に向ったときの直の自然な感情の流露を、「行人」の中でただ夫でない男への自覚されない自然性、夫への欺瞞の裏がえったものとして扱われているようなところが、今日から見られればやはり漱石のリアリズムの一限界であると思う。 女を夫が邪にするの・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・けれども、子供の時から私の生活は両親の保護でぐるりととりまかれ、その状態が長く続いたので、本当に自分の感情を流露させて深く交際する人を見出すことは難しかった。一つには、性格の傾向や趣味の問題もある。何かで読んだ通り、こちらで求めるときには、・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・ 児童教育の理想を話される時など、人性の尊厳、微妙さの感歎、セコンド・ジェネレーションに対する健全な期待の心などが、流露した。先生の話を伺っているうちに、若いものは、生活を愛し、価値を高め、積極道に活きずに居られないような、光明、希望、・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・その意味で、解説的、入門的な本の書きかたにおける新たな親しみ深さ、人柄の流露のタイプを提出していると思う。 序文によると、著者は初め、今私達の目前にあるのとは異ったプランで、この本の準備をされたらしい。現在の主篇を第一篇西洋として、第二・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
出典:青空文庫