・・・濁って濁って、そのうちに、だんだん澱粉が下に沈み、少しずつ上澄が出来て、やっと疲れて眼がさめる。朝は、なんだか、しらじらしい。悲しいことが、たくさんたくさん胸に浮かんで、やりきれない。いやだ。いやだ。朝の私は一ばん醜い。両方の脚が、くたくた・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・しかし『道徳教』でも『論語』でもコーランでも結局はわれわれの智恵を養う蛋白質や脂肪や澱粉である。たまたま腐った蛋白を喰って中毒した人があったからと云って蛋白質を厳禁すれば衰弱する。 電車で逢った背広服の老子のどの言葉を国定教科書の中に入・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・『仰臥漫録』に「顕微鏡にて見たる澱粉の形状」の図を貼込んであるのもそういう意味から見て面白い。 とにかく、文学者と称する階級の中で、科学的な事柄に興味を有ち得る人と有ち得ない人とを区別する事が出来るとしたら子規はその前者に属する方で・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・折詰の飯に添えた副食物が、色々ごたごたと色取りを取り合せ、動物質植物質、脂肪蛋白澱粉、甘酸辛鹹、という風にプログラム的に編成されているが、どれもこれもちょっぴりで、しかもどれを食ってもまずくて、からだのたしになりそうなものは一つもない。・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
普通中学校などに備え付けてある顕微鏡は、拡大度が六百倍乃至八百倍ぐらいまでですから、蝶の翅の鱗片や馬鈴薯の澱粉粒などは実にはっきり見えますが、割合に小さな細菌などはよくわかりません。千倍ぐらいになりますと、下のレンズの直径が・・・ 宮沢賢治 「手紙 三」
・・・「そこで、澱粉と脂肪と蛋白質と、この成分の大事なことはよくおわかりになったでしょう。 こんどはどんなたべものに、この三つの成分がどんな工合に入っているか、それを云います。凡そ、食物の中で、滋養に富みそしておいしく、また見掛けも大へん・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
出典:青空文庫