・・・とある其事である(約翰、単に神の子たるの名称を賜わる事ではない、実質的に神の子と為る事である、即ち潔められたる霊に復活体を着せられて光の子として神の前に立つ事である、而して此事たる現世に於て行さるる事に非ずしてキリストが再び現われ給う時に来・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・と誰かが気の無い返事を為る。「全くあの男ほど気の毒な人はないよ」と老人は例の哀れっぽい声。 気の毒がって下さる段は難有い。然し幸か不幸か、大河という男今以て生ている、しかも頗る達者、この先何十年この世に呼吸の音を続けますことやら。憚りな・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・別に家庭の教育などという論は無い頃のことでしたが、先ず毎日々々復習を為し了らなければ遊べぬということと、朝は神仏祖先に対して為るだけの事を必ず為る、また朝夕は学校の事さえ手すきならば掃除雑巾がけを為るということと、物を粗末にしてはならぬとい・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・「その日に自分が為るだけの務めをしてしまってから、適宜の労働をして、湯に浴って、それから晩酌に一盃飲ると、同じ酒でも味が異うようだ。これを思うと労働ぐらい人を幸福にするものは無いかも知れないナ。ハハハハハ。」と快げに笑った主人の面か・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・「だってこうなってからというものア運とは云いながら為ることも為ることもどじを踏んで、旨え酒一つ飲ませようじゃあ無し面白い目一つ見せようじゃあ無し、おまけに先月あらいざらい何もかも無くしてしまってからあ、寒蛬の悪く啼きやあがるのに、よじり・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・ええええ、手工風のことなら、あれも好きで為るわいなし。そのうちに、あなた、あれも女でしょう。あれが女になった時なぞは、どのくらい私も心配したか知れすか」「全く、これまでに成さるのはお大抵じゃなかった。医者の方から考えても、お嬢さんのよう・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・そんなことを為る奴もあるが、俺の方ではチャンと見張りしていて、そんな奴あ放り出してしまうんだ。それにそう無暗に連れて来るって訳でもないんだ。俺は、お前が菜っ葉を着て、ブル達の間を全で大臣のような顔をして、恥しがりもしないで歩いていたから、附・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・無理に強うれば虚偽と為る。教育家の注意す可き所なり。又嫁して後は我親の家に行くことも稀なる可し。況して他の家へも大方は自から行かずして使を以て音問す可しと言う。是れも先ず以て無用の注意なるが如し。女子結婚の後は自から其家事に忙しく、殊に子供・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・で、じっと自分の魂の発育を見守って居たのでございます。 家を離れて来てから、時間としては、まだ僅か半年位ほか経っては居りません。 けれども、海を境にして、私の「彼方」でした生活と、今「此処」で為る生活との間には、殆ど時間が測定する事・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 若し、その行為が、動機に於て全く絶対なものであり、その人の過去の経歴、性格等によってはそうほか成りようのないものであったのなら、私は、たといそれが百人、千人の為る平凡な、或は愚といわれる種類の行為であっても、それは仕方がないと思う。批・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
出典:青空文庫