・・・ 運良く未だ手をつけていなかった無尽や保険の金が千円ばかりあった。掛けては置くものだと、それをもって世間狭い大阪をあとに、ともあれ東京へ行く、その途中、熱海で瞳は妊娠していると打ち明けた。あんたの子だと言われるまでもなく、文句なしにその・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・ 部屋の壁には、無尽会社の宣伝ポスター、たった一枚、他にはどこを見ても装飾らしいものがない。カーテンさえ無い。これが、二十五、六の娘の部屋か。小さい電球が一つ暗くともって、ただ荒涼。怪力 「あそびに来たのだけどね、」と田・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・大工のみにかぎらず、無尽講のくじ、寄せ芝居の桟敷、下足番の木札等、皆この法を用うるもの多し。学者の世界に甲乙丙丁の文字あれども、下足番などには決して通用すべからず。いろはの用法、はなはだ広くして大切なるものというべし。 然るに不思議なる・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
出典:青空文庫