・・・同上 芸術 画力は三百年、書力は五百年、文章の力は千古無窮とは王世貞の言う所である。しかし敦煌の発掘品等に徴すれば、書画は五百年を閲した後にも依然として力を保っているらしい。のみならず文章も千古無窮に力を保つかどうかは疑・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・そしてこの一秒時が無窮に長く思われて、これを見詰めているのが、何とも言えぬ苦しさであった。次の刹那には、足取り行儀好く、巡査が二人広間に這入って来て、それが戸の、左右に番人のように立ち留まった。 次に出たのが本人である。 一同の視線・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・として神の前に立つ事である、而して此事たる現世に於て行さるる事に非ずしてキリストが再び現われ給う時に来世に於て成る事であるは言わずして明かである、平和を愛し、輿論に反して之を唱道するの報賞は斯くも遠大無窮である。 義き事のために責めらる・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・若しこの社会の有力なる識者が、真に母が子供に対する如き無窮の愛と、厳粛さとを有って行うのであれば宜しいけれども、そうでないならば寧ろ自然の儘に放任して置くに如かぬ、彼等の多くは愛を誤解している。 茲に苦しんでいる人間があるとする。それを・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・無窮から、無窮へゆくものは、だれだ。おまえは、その姿を見たか、魔物か、人間か。黒い着物をきて破れた灰色の旗がひるがえる。 風は、歌って聞かせました。そして、強く、強く吹き出しました。木の芽ばかりでなく、野・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・童話の創作熱に魂の燃えた時に、はじめて、私の眼は、無窮に、澄んで青い空の色を瞳に映して、恍惚たることを得るのであります。 私を、現実の苦しみから救うものは、逃避でもなく、妥協でもなく、また終わりなき戦いでもなく、全く、創造の熱愛があるか・・・ 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・われと他と何の相違があるか、みなこれこの生を天の一方地の一角に享けて悠々たる行路をたどり、相携えて無窮の天に帰る者ではないか、というような感が心の底から起こって来てわれ知らず涙が頬をつたうことがある。その時は実に我もなければ他もない、ただた・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・直線は一種直線ぎりだが、曲線はいろいろの度を無窮の多数に有している、有則曲線、無則曲線、実に人間には分らないほど色々の曲線がある。たとえば有則の曲線の場合でいおうか。ここに仮定した二点があるとして、二点を貫く曲線をブンマワシで書て見玉え、ま・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ 三 いやしくも、狂愚にあらざる以上、なんびとも永遠・無窮に生きたいとはいわぬ。しかも、死ぬなら天寿をまっとうして死にたいというのが、万人の望みであろう。一応は無理からぬことである。 されど、天命の寿命をまっと・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 三 苟くも狂愚にあらざる以上、何人も永遠・無窮に生きたいとは言わぬ、而も死ぬなら天寿を全くして死にたいというのが、万人の望みであろう、一応は無理ならぬことである。 左れど天命の寿命を全くして、疾病もなく、負傷も・・・ 幸徳秋水 「死生」
出典:青空文庫