・・・その時、僕は、毛穴の立っているおからす芸者を男にしてしまっても、田島を女にして見たいと思ったくらいだから、僕以前はもちろん、今とても、吉弥が実際かれと無関係でいるとは信じられなくなった。どうせ、貞操などをかれこれ言うべきものでないのはもちろ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・眼だけは、文字の上に止っても、頭で他のことを空想するように、感ずる興味の乏しいものは、その書物と読む者の間が、畢竟、無関係に置かれるのを証する以外に、何ものでもありません。それであるから、所謂、良書なるものは、その人によって、定められるのが・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・ 翁の子敬太郎は翁とまるきり無関係で育ちかつ世に立った。そして二十五六のころ、八百屋を始めたが、まもなくよして、売卜者になった。かつ今は行き方も知れない。そして見ると河田翁その人の脈みゃくらくには、『放浪』の血が流れているのではないか。・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・が、その母や、妹や、親爺は、今、どうしても手が届かない、遥かな彼方に彼とは無関係に生きているのだ。誰れも彼に憐れみの眼光を投げて呉れる者はなかった。看護卒は、たゞ忙しそうに、忙しいのが癪に障るらしく、ふくれッ面をして無慈悲にがたがたやってい・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・それでは馬琴が描いた小説中の人物は当時の実社会とはまるで交渉が無いかというと、前々から申しました通り、直接には殆ど関係が無いのでありますが、決して実社会と没交渉無関係ではありませんように考えられます。 それならどういう風に関係が有ったろ・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・たとえば、絶対収斂の場合、昔は順序に無関係に和が定るという意味に用いられていました。それに対して条件的という語がある。今では、絶対値の級数が収斂する意味に使うのです。級数が収斂し、絶対値の級数が収斂しないときには項の順序をかえて、任意の l・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・それでいてこれは凡そ自信とは無関係と考えます。のみならず、彼は建立が完成されても、囲をとり払うとともに塔が倒れても、やはり発狂したそうです。こういう芸術体験上の人工の極致を知っているのは、おそらく君でしょう。それゆえ、あなたは表情さえ表現し・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・科学でさえ、それと無関係ではないのだ。科学の基礎をなすものは、物理界に於いても、化学界に於いても、すべて仮説だ。肉眼で見とどける事の出来ない仮説から出発している。この仮説を信仰するところから、すべての科学が発生するのだ。日本人は、西洋の哲学・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・数理に関する彼の所得は学校の教程などとは無関係に驚くべき速度で増大した。十五歳の時にはもう大学に入れるだけの実力があるという事を係りの教師が宣言した。 しかし中等学校を卒業しないうちに学校生活が一時中断するようになったというのは、彼の家・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・しかしアインシュタインが、科学それ自身は実用とは無関係なものだと言明しながら、手工の必修を主張して実用を尊重するのが妙だと云うのに答えて次のような事を云っている。「私が実用に無関係と云ったのは、純粋な研究の窮極目的についてである。その目・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫