・・・どこを見ても綺麗に掃除がしてある。片付けてある。家がきちんと並べて立ててある。およそ十二キロメエトルほど歩いて、自動車を雇ってホテルへ帰った。襟の包みは丁寧に自動車の腰掛の下へしまっておいて下りた。おれだって、あしたはきっと戻って来るとは知・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・こういう問題を、少し立入って考究し論議するとなると、事柄は存外複雑になって来て、おそらく、そうそう簡単には片付けられないことになるであろう。あるいは結局いつまで論議しても纏まりの付かないような高次元の迷路をぐるぐる廻るようなことになるかもし・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・ めんどうくさくなった細君は無責任な同意を表しはしたが、それでも堅吉はいくらか安心したらしく、散らかした手紙をそろそろ片付けていた。 K市の姉からだとすると、一つ思い当たる事があった。彼女が去年まで家を貸してあった中学教師のスイス人・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・おれの事だからいつだかわからんと云ったような事を云うてザブ/\とすまし、机の上をザット片付けて革鞄へ入れるものは入れ、これでよしとヴァイオリンを出して second position の処を開けてヘ調の「アンダンテ」をやる。1st とちがっ・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・ 娘を片付けて後のある場合の「父」の心を思いながら私は月のおぼろな路地を抜けてほど近いわが家へ急いで行った。 私は猫に対して感ずるような純粋なあたたかい愛情を人間に対していだく事のできないのを残念に思う。そういう事が可能になるた・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・ 五 八十三で亡くなった母の葬儀も済んで後に母の居間の押入を片付けていたら、古いボールの菓子箱がいくつか積み重ねてあるのに気がついた。何だろうと思って明けてみると、箱の奥に少しずつ色々の菓子の欠けらが散らばっ・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・それをいいかげんなほんの一面的なやぶにらみの注解をつけて片付けてしまうのではせっかくのおとぎ話も全く台無しになってしまう。 おとぎ話はおとぎ話でよいのである。 おとぎ話は物理学の教科書と同じく石が上から下へ落ちるという事実を教える。・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・あまり凝りすぎてもからだにさわるから午前だけにしたいと思ったが、午前中に一段片付けたつもりで昼飯を食いながらながめていると間違った所が目について気になりだす、もう一筆と思ううちにとうとう午後の時間が容赦なくたってしまう。 それでも少しず・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・ ほんのだいたいの色と調子の見当をつけたばかりで急いで絵の具箱を片付けてしまった。さてふり返って見るともうだれもいなかった。人々の好奇心の目的物はやっぱりこの私ではなくて「絵をかいてるどこかの人」であったのである。このぶんなら東京の町中・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ 乙種の科学者は、そう簡単にも片付けてしまわない。しかし、問題がまだアカデミックな研究にかけるにはあまりになまなましくて、ちょっと手がつけられそうもないから、そういう問題はまずまず敬遠しておくほうがいいという用心深い態度を守って、格別の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫