・・・赤錆だらけの牡蠣殻だらけのボロ船が少しも恐ろしい事アないが、それでも逃がして浦塩へ追い込めると士気に関係する。これで先ず一段落が着いた。詳報は解らんが、何でもよっぽど旨く行ったらしい……」とちょっと考えて「事に由るとロスの奴、滅茶々々かも解・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・今日、両親と別れるのが辛くて歎いている心は、やがて、自分の為になる財産の一つとなるだろうと考えたので、彼は、それをも、スバーに対する信用の一つに加えました。牡蠣についた真珠のように、娘の涙は彼女の価値を高めるばかりでした。彼は、スバーが自分・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・嘉七は牡蠣のフライをたのんだ。これが東京での最後のたべものになるのだ、と自分に言い聞かせてみて、流石に苦笑であった。妻は、てっかをたべていた。「おいしいか。」「まずい。」しんから憎々しそうにそう言って、また一つ頬張り、「ああまずい。・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・筋子なぞを、平気でたべる人の気が知れない。牡蠣の貝殻。かぼちゃの皮。砂利道。虫食った葉。とさか。胡麻。絞り染。蛸の脚。茶殻。蝦。蜂の巣。苺。蟻。蓮の実。蠅。うろこ。みんな、きらい。ふり仮名も、きらい。小さい仮名は、虱みたい。グミの実、桑の実・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ある家では牡蠣を入れたのを食わされて胸が悪くて困った記憶がある。高等学校時代に熊本の下宿で食った雑煮には牛肉が這入っていた。土佐の貧乏士族の子の雑煮に対する概念を裏切るような贅沢なものであった。比較にならぬほど上等であるために却って正月の雑・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
・・・御畳瀬 「ピパ」牡蠣の種類。「シ」は在所。「セッ」巣。北海道に地名ビバウシがある、バチェラーはやはり「貝のある所」と解している。bがmに変るのは普通だからこれは同じものらしい。仁淀 坪井博士はチャム語「ニオト」塩魚、塩肉としている。・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・と呼び歩いた。牡蠣売りは昔は「カキャゴー」と言ったものらしい、というのは自分らの子供時代におとなからしばしば聞かされたたぬきの怪談のさまざまの中に、この動物が夜中に牡蠣売りに化けて「カキャゴーカキャゴー」と呼び歩くというのがあって、われわれ・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
出典:青空文庫