・・・その質問の大部分が矢部にとっては物の数にも足らぬ小さなことのように、「さようですか。そういうことならそういたしても私どものほうではけっして差し支えございませんが……」 と言って、軽く受け流して行くのだった。思い入って急所を突くつもり・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 私自身などは物の数にも足らない。たとえばクロポトキンのような立ち優れた人の言説を考えてみてもそうだ。たといクロポトキンの所説が労働者の覚醒と第四階級の世界的勃興とにどれほどの力があったにせよ、クロポトキンが労働者そのものでない以上、彼・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・この詩人の身うちには年わかき血温かく環りて、冬の夜寒も物の数ならず、何事も楽しくかつ悲しく、悲しくかつ楽し、自ら詩作り、自ら歌い、自ら泣きて楽しめり。 この夕は空高く晴れて星の光もひときわ鮮やかなればにや、夜に入りてもややしばらくは流れ・・・ 国木田独歩 「星」
・・・盾の上に動く物の数多きだけ、音の数も多く、又その動くものの定かに見えぬ如く、出る音も微かであららかには鳴らぬのである。……ウィリアムは手に下げたるクララの金毛を三たび盾に向って振りながら「盾! 最後の望は幻影の盾にある」と叫んだ。 戦は・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・第四、数学 指を屈して物の数を計るをはじめとし、天文・測量・地理・航海・器械製造・商売・会計、ことごとく皆、数学のかかわらざるものなし。かつ数学を知らざる者は、その学識を実用に施すときにあたりて、議論つねに迂闊なり。・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・エロ・グロ出版物追放の仕事に着手した。この仕事は、一応すべての人の常識にうけ入れられる性質をもっている。エロ・グロ出版物の数が減ってより良書が一冊でも多く売り出されることは必要である。しかしエロ・グロ出版物追放に関連して一部に出版取締法のよ・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 日本は、知られているとおり出版物の数の多いこと、種類の夥しいことでは、世界でも屈指であった。夥しい良書悪書の氾濫にもかかわらず、女性の著作のしめている場所は、狭く小さく消極的で、波間にやっと頭を出している地味の貧しい小島を思わせる。や・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・使わなければならない紐の数、小物の数、いかばかりだろう。その一つ一つに神経がいる。けれども、全体の形は少くともこれ迄は、働く時間の衣類の形もくつろぐ時、外出の時の衣服の形も同じで、動きを語る線の上でのくっきりとした変化というものは持たなかっ・・・ 宮本百合子 「働くために」
出典:青空文庫