・・・ 日本のファシズムの新しい方法は非常に狡猾になってきている。正面から軍国主義の復活や侵略的な民族主義をたきつけることは出来ないから、民主主義者が提唱する人民的な民族主義に便乗して「日本を再建するために」云々と、民族自立の問題・主権在民の・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ われわれはゴーリキー礼讚における狡猾な党派性の抹殺をあばかなければならぬ。プロレタリア作家としての実践の中にその基本とプロレタリアの党派性を確立しなければならない。〔一九三三年一月〕・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・真面目にとり扱っているような風ではあるが、そこには狡猾にひやかしが雑ぜられている。劇中劇などと逃げを打って、イヤに比喩めかして、あり得べからざる安易さで革命をこねあげて見せている。 科白では、ソヴェト赤紫島万歳! と呼ぶ。だが、その「万・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・日本の一般人は、権力者たちが考え出したこの狡猾な委員会の性格のすりかえにたいして注目している。彼らは対日理事会その他のアドヴァイスによって日本民主化のための各種委員会を組織しなければならなかった。やむをえず組織した委員会は表面的な日本の民主・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・元来を言えばかれは狡猾なるノルマン地方の人であるから人々がかれを詰ったような計略あるいはもっとうまい手品のできないともいえないので、かれの狡猾はかねがね人に知れ渡っているところから、自分の無罪を証明することは到底叶うまじきようにかれも思いだ・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・罪のないような、狡猾らしいような、くりくりした目で、微笑を帯びて、叔父の顔をじっと見た。 叔父は少からず狼狽した。「なる程。それは時と場合とに依る事で、わしもきっととは云い兼ねる。出来る事なら、どうにでもしてお前をその場へ呼んで遣るのだ・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ 記者は主人の顔をちょいと見て、狡猾げに笑った。 主人は記者の顔を、同じような目附で見返した。「そこへ行くと、君は罪が深い。酒と肉では満足しないのだから。」「うん。大した違いはないが、僕は今一つの肉を要求する。金も悪くはないが、・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・そして、胸の中で、自分は安次を引取ることに異議を立てるのではなく、秋三の狡猾さに立腹しているのだと理窟も一度立ててみた。が、事実は秋三や母のお霜がしたように、病人の乞食を食客に置く間の様々な不愉快さと、経費とを一瞬の間に計算した。 お霜・・・ 横光利一 「南北」
・・・ロシアの神を信じようとする一人の青年は彼の内にその神の使徒を見る。狡猾と虚偽とを享楽するらしい一人の虚無主義者は、自らを彼の奴隷のごとくに感じている。彼を殺そうとした者は死の前に平然たる彼の態度によって、心の底から覆えされた心持ちになる。こ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・時には残忍とか狡猾とか盗心とかいうものに対してまでも滋養を与えなくてはならないかも知れません。で、青春の時期に最も努むべきことは、日常生活に自然に存在しているのでないいろいろな刺激を自分に与えて、内に萌えいでた精神的な芽を培養しなくてはなら・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫