・・・おまえのきらいな、いっしょになると生き血を吸われるような人間でな、たとえばかったい坊だとか、高利貸しだとか、再犯の盗人とでもいうような者だったら、おれは喜んで、くれてやるのだ。乞食ででもあってみろ、それこそおれが乞食をしておれの財産をみなそ・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・お姫さま、あなたは、皇子に生き血を吸われることとなります。この結婚は不吉でございます。もし、ご結婚をなされば、この国に疫病が流行します。」と、おばあさんの予言者はいいました。 お姫さまは、これを聞いて、心配なされました。どうしたらいいだ・・・ 小川未明 「赤い姫と黒い皇子」
・・・山下氏のでも梅原氏のでも、近頃のものよりどうしても両氏の昔のものの方が絵の中に温かい生き血がめぐっているような気がするのである。故関根正二氏の「信仰の悲み」でも、今の変り種の絵とはどうもちがった腹の底から来る熱が籠っていると思われる。すべて・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・「屠牛所の生き血の崇りがあの湖にはあるのだろう」 一週間ぐらいは、その噂で持ち切っていた。 セコチャンは、自分をのみ殺した湖の、蒼黒い湖面を見下ろす墓地に、永劫に眠った。白い旗が、ヒラヒラと、彼の生前を思わせる応援旗のようにはた・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・そのために日本の農村の貧困は甚しく農家から貧乏のために一年幾ら、二年幾らと前借金して工場に集められた小さな娘たちの生き血が搾られた。そして工場に二年ぐらい働いていると悪い労働条件のために肺病となるものの率が多く、その娘たちは田舎の家へかえっ・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
出典:青空文庫