・・・科学的発明も、化学工業も、鉄道敷設も、電信も道路の開通も、すべてが、資本主義の下にあっては、戦争準備の目標に向って集中されている。それは直接間接にプロレタリアの生活に重大な関係を持っている。反戦文学の恒常性はこゝに存在する。資本主義制度が存・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・四 知識で押して行けば普通道徳が一の方便になるとともに、その根柢に自己の生を愛するという積極的な目標が見えて来る。世間にはこの目標を目障りだと言って見まいとするものもあるが、自分にはどうしても見えると言う方が正直としか思われ・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・そこに目標を置いているようです。「芸術的」という、あやふやな装飾の観念を捨てたらよい。生きる事は、芸術でありません。自然も、芸術でありません。さらに極言すれば、小説も芸術でありません。小説を芸術として考えようとしたところに、小説の堕落が胚胎・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・家庭の幸福は、或いは人生の最高の目標であり、栄冠であろう。最後の勝利かも知れない。 しかし、それを得るために、彼は私を、口惜し泣きに泣かせた。 私の寝ながらの空想は一転する。 ふいと、次のような短篇小説のテーマが、思い浮んで来た・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・そこに目標を置いているようです。〈芸術的〉という、あやふやな装飾の観念を捨てたらよい。生きる事は、芸術でありません。自然も、芸術でありません。さらに極言すれば、小説も芸術でありません。小説を芸術として考えようとしたところに、小説の堕落が胚胎・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・ 日本の映画は、そんな敗者の心を目標にして作られているのではないかとさえ思われる。野望を捨てよ。小さい、つつましい家庭にこそ仕合せがありますよ。お金持ちには、お金持ちの暗い不幸があるのです。あきらめなさい。と教えている。世の敗者たるもの・・・ 太宰治 「弱者の糧」
・・・従って大垣道から見て、この山はかなり顕著な目標物でなければならない。もっとも伊吹以北の峰つづきには、やはり千メートル以上の最高点がいくつかあるから、富士のような孤立した感じはないに相違ない。 問題の句を味わうために、私の知りたいと思った・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・ 音と光との二つの世界のいろいろの差違がいろいろの形で発声映画に利用される、そのもう一つの顕著な目標はリズムの問題に係わっている。律動は本来時間的のものであって時間的に週期的な現象がわれわれ人間に生理的および心理的に内在する律動感に共鳴・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・人間はそれぞれの明白な心の目標があって、それに向かわんために充分納得して寒苦と戦っているが、犬はなんのためだか、ちっともわからないで、ただたよる主人の向かう所なら、さもうれしげに死の雪原に突進するのである、犬でもやはり苦しくなくはないであろ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・美術工芸よりして日常一般の風俗流行に至るまで、新しき時代が促しつくらしめる凡てのものが過去に比較して劣るとも優っておらぬかぎり、われわれは丁度かの沈滞せる英国の画界を覚醒したロセッチ一派の如く、理想の目標を遠い過去に求める必要がありはせまい・・・ 永井荷風 「霊廟」
出典:青空文庫