・・・亜流はこの描写法を小説作法の約束だと盲信し、他流もまたこれをノスタルジアとしている。頭が上らない。しかし、一体人間を過不足なく描くということが可能だろうか。そのような伝統がもし日本の文学にあると仮定しても、若いジェネレーションが守るべき伝統・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ ぐらいのことは言い、いよいよとなれば、飲む覚悟も気休めにしていたほどであったから、一般大衆の川那子肺病薬に対する盲信と来たら、全くジフイレスのサルバルサンに於けるようなものだった――と、言って過言ではあるまい。病人にはっきり肺病だと知・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・そのマダムもまた、狐は人をだますものだと単純に盲信しているらしく、誰もたのみもせぬのに、襟巻を用いる度毎に、わざわざ嘘つきになって見せてくれる。御苦労なことである。狐がマダムを嘘つきにしているのでは無く、マダムのほうから、そのマダムの空想の・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・おろかな、おろかな、盲信である。人は、自分以上の仕事もできないし、自分以下の仕事もできない。働かないものには、権利がない。人間失格、あたりまえのことである。 そう思って、しかめつらをして机のまえに坐るのであるが、さて、何もしない。頬杖つ・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・古法古言を盲信して万世不易の天道と認め、却て造化の原則を知らず時勢の変遷を知らざるは、古学者流の通弊にこそあれ。人智の進歩は盲信を許さゞるなり。古人が女子を床の下に臥さしめて男天女地の差別を示したるは古人の発意にして、其意は以て人間万世の法・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・又、一層悲しき微笑の浮むことは、日本から行った者が、帰るときっと無批判に所謂英国の紳士道の盲信にかぶれ、変に奇麗ごとの好きになることである。 宮本百合子 「無題(四)」
出典:青空文庫