・・・ 男の作家たちが、めいめいの傾向に相違はありながら、世界最初の社会主義社会が生んだ文学として、値うち高い成果を示している時、婦人作家たちは、共同の戦線に立ってまた独特の筆致と着眼とで、プロレタリア文学の発展に参加した。 ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・こういう婦人の観かたと、ゴーリキイが、私に日本の婦人は出版の自由をもっているかと聞いたそういう具体的な、そして健康な着眼との相違が当時も深く心に刻まれたのであった。その後ある必要からゴーリキイの自伝的な作品を読み、ゴーリキイが婦人というもの・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・ 全国的な米の不足に対して、都会も消費者としての側からばかりでなく、せめては馬鈴薯をつくるなりして、困難を凌いでゆく一つの感情に結ばれて行こうという着眼は理解されるけれども、一々の家庭の現実について見ると、そこに悲しき頬笑みの浮ぶ事情も・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
・・・ 清少納言という人は当時の女流の文筆家の中でも才気煥発な、直感の鋭い才媛であったことは枕草子のあらゆる描写の鮮明さ、独自な着眼点などで誰しも肯うところだと思う。枕草子の散文として独特な形そのものも清少納言の刹那に鋭く働いた感覚が反映・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・ こういう細かい生活の実況であるにもかかわらず、総体としてラジオが益々大勢にきかれるようになって来ることには、一方で、出版物の高騰、書籍購買力の低下と伴い、一方では確に放送局で着眼しているとおりニュース価値の増大にあるだろうと思う。・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・過去のプロレタリア文学理論の発展的展開をめざしての努力であるだろうけれども、その発展のモメントは、一人一人の理論家が、自分として着眼した点を主張するところにおかれている傾きがつよい。理論活動も人生的な実感に立たなければならない。それぞれの理・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・ 誰やらが、樺太のテレベン油は非常な利益になりそうで、始て製造を試みた何某の着眼は実にえらいという評判だと云うと、黙って酒を飲んでいた博士が短い笑声を洩した。「あれか。あれは樺太へ立つ前に己の処へ来たから、己が気を附けて遣ったのだ。・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・旅順は落ちると云う時期に、身上の有るだけを酒にして、漁師仲間を大連へ送る舟の底積にして乗り出すと云うのは、着眼が好かったよ。肝心の漁師の宰領は、為事は当ったが、金は大して儲けなかったのに、内では酒なら幾らでも売れると云う所へ持ち込んだのだか・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・そういう着眼であるから、信玄の一代記にしても、戦国武士の言行録にしても、道徳的訓戒としての色彩が非常に濃い。 ここにはその一例として、「命期の巻」にある「我国をほろぼし我家をやぶる大将」の四類型をあげてみよう。 第一は、ばかなる大将・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・この不思議な」言葉がどこから出て来たかをいろいろと考えてみたが、どうもこれは「なけらにゃならん」という地方なまりをひき直したものらしい、といわれた。この着眼にはわたくしは少なからず驚かされたのである。わたくし自身もこの言い回しが著しく目立っ・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫