・・・ 正直と善良とがあれば、物静かな村の生活でも、虚偽と浮薄が風をなす、物質的文明で飾られた大都会の生活よりは、遙に貴いと確信される如く、悪人がいかに外面に美しく飾っても、畢竟、善い人間とはならないようなものであります。 地上に生れて来・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・そして、また気候の変化したる幾万年の後に至るも果して、今日の如く、人類がこの地球の征服者であると誰が確信するものがありましょうか。適者生存は、犯し難い真理であります。驕る者久しからず、これを思えばもっと人間は、動物に対して、親切であるべき筈・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・お源は炭を盗んでいるところであったとは先ず最初に来る判断だけれど、真蔵はそれをそのまま確信することが出来ないのである。実際ただ炭を見ていたのかも知れない、通りがかりだからツイ手に取って見ているところを不意に他人から瞰下されて理由もなく顔を赤・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・しかし、私は確信していた。その三十種類くらいの同人雑誌に載っている全部の作品の中で、天才の作品は井伏さんのその「山椒魚」と、それから坪田譲治氏の、題は失念したけれども、子供を主題にした短篇小説だけであると思った。 私は自分が小説を書く事・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・相手の確信の強さ、自己肯定のすさまじさに圧倒せられるのである。そうして私は沈黙する。しかし、だんだん考えてみると、相手の身勝手に気がつき、ただこっちばかりが悪いのではないのが確信せられて来るのだが、いちど言い負けたくせに、またしつこく戦闘開・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・この確信に間違い無いか。私は、なんだか、ひどい思いちがいしていたのでは無いか。このとしになるまで、知らずにいた厳粛な事実が在ったのでは無いか。女房は、あれは、道具にちがいないけれど、でも、女房にとって、私は道具でなかったのかも知れぬ。もっと・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ご自分の言う事に確信の無い証拠だ。ごまかしている証拠だ。いい加減を言っている証拠だ。もしあの、ヘラヘラ笑いの答弁が、官僚の実体だとしたなら、官僚というものは、たしかに悪いものだ。あまりに、なめている。世の中を、なめ過ぎている。私はラジオを聞・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・自身、手さぐって得たところのものでなければ、絶対に書けない。確信の在る小さい世界だけを、私は踏み固めて行くより仕方がない。私は、自身の「ぶん」を知っている。戦線のことは、戦線の人に全部を依頼するより他は無いのだ。 私は、兵隊さんの小説を・・・ 太宰治 「鴎」
・・・「どこからそんなだいそれた確信が得られるの? 軽々しくものを言っちゃいけない。どこからそんな確信が得られるのだ。よい作家はすぐれた独自の個性じゃないか。高い個性を創るのだ。渡り鳥には、それができないのです。」 日が暮れかけていた。青・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・とにかく簡単なことについて歴史的に教えることも幾分加味した方が有益だと確信するのである。 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
出典:青空文庫